長寿研究のいまを知る(12)細胞のリプログラミングはどこまで進んでいるのか
いまの医療は高齢者の治療に必ずしも熱心に取り組んでいるようには見えない──。
そんな不満を持つ人もいるかもしれない。それは医療従事者が、がんを含めて高齢者が患う病気の多くが老化を加速する「病的老化」だと感じているからだ。
ある病気をコストをかけて完璧に治療して治せても、すでにその病気が老化を加速させており、延命につながらないと考えているのだ。
その意味では、前回取り上げたメトホルミンは世界初の抗老化薬に最も近い存在といえるかもしれない。2型糖尿病の治療薬として承認されてから65年。その効果と安全性のエビデンスが積み重ねられており、値段も250ミリグラム1錠が10円ほど。
現在、各国でその抗腫瘍、抗炎症などの研究が行われており、米国では主要14研究機関が参加するメトホルミンの研究が進んでいる。心臓病、がん、認知症などの加齢に伴う慢性疾患の発症遅延や進行の抑制が実現するかどうかを検証するもので、その結果によっては今後この薬が「病的老化」を防ぐ抗老化薬としての可能性が広がるきっかけになるかもしれない。