【熱中症死者1500人時代】それでもなぜ老人は夏場に厚着するのか「5つの仮説」を検証する

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考えられる「5つの仮説」

■【仮説1】長袖の方が“涼しい”と感じる

「実は、私も長袖派です。半袖だと太陽の直射日光が強すぎて逆に体力を消耗してしまう。薄着より長袖の方が“涼しく”感じるのです。アラブの人々が首から足まで長袖のトーブという民族衣装を着ていますが、日本の気候も同じような感じになっているのです」

 今年で74歳の森田さんはこう言う。直射日光や地面からの照り返しを長袖の衣類で守るわけだ。

 ただし、体温調節機能は年と共に着実に衰えている。ヒトの体は、体温が上昇すると血流を増やして冷まそうとする。モントリオール大学の研究グループが、平均28歳の若者と、同67歳の健康な熟年、そして心臓に疾患のある同70歳の3グループに分けて暑さと血流の関係を調べたところ、若者に対して67歳グループは血流を増やす反応が鈍く、心臓疾患の70歳グループはさらに鈍かった。

 若い人であっても今年の猛暑はこたえる。体温調節に支障の出ない服装を心がけたい。

■【仮説2】体の暑さセンサーが壊れている

 高齢になれば、平熱も若者に比べて低下する。基礎代謝が低下するためで、老人が真夏なのに「寒い」と言ったりするのはこれが理由のひとつ。

 通常、我々は寒い時は暖房をつけて厚着をするし、暑い時は冷房を入れて薄着をする。屋外では帽子をかぶったり日傘をさしたり、日陰に入る(行動性体温調節)。

 一方、暑いと汗をかいて熱を逃がし、寒いと筋肉を震わせて熱をつくる反応は、意思とは関係なく自律的に起こるので、「自律性体温調節」と呼ばれる。だが、老化が進むと暑さに対する脳の感度が鈍くなってくる。

 とはいえ、「涼しい」と感じても、内臓などの深部体温はしっかり上昇しているため熱中症のリスクが高まる。

「日本気象協会の熱中症意識調査では、80代、90代の5割以上の人が『エアコンを使用すると体が冷える』と答えています。電気代の節約より圧倒的に多い数字です」(ジャーナリスト・中森勇人氏)

 温度計も活用したい。

■【仮説3】我慢が偉いと思い込んでいる

 高齢者からよく聞く言葉が「夏が暑いのは当たり前」「昔の人はこれぐらい我慢していた」といったもの。30年、40年前にエアコンは庶民の高根の花で、お金持ちへの嫉妬など複雑な感情から「エアコンは贅沢品」と嫌悪している人も多い。また、オイルショックを契機として1979年に「省エネ法」が制定され、省エネは長く日本人の美徳となっていた。さらに生活保護受給者に対してエアコン購入が認められるようになったのも2018年の厚労省の改善通知が出て以降。エアコンがそもそも「ない」という家庭もある。

■【仮説4】クーラーは体に悪いという都市伝説

 昭和の名優・沢村貞子は「クーラーは体に悪い」と夫に言われ、すぐに外したという。自律神経の乱れで起こる疲労が「クーラー病」だ。

「先の日本気象協会の意識調査で、80代、90代の熱中症対策は『エアコンを利用する』(53.8%)より、『窓を開けて室内の風通しをよくする』(73.1%)と回答した人が多かった。風鈴がなびく自然の風の方が健康にいいというわけです」(中森氏)

 体を冷やすのは悪の考えだ。

■【仮説5】認知機能が低下してよくわかっていない

 19年に京都の医療団体が高齢者宅を訪問して調査したところ、一部ではあるが、「暑いと言いながら毛布を敷いて冬布団で寝ていた人」や「額に汗を流しながら涼しいと言う人」がいたという。

 認知症の症状が進行すると「見当識障害」によって自分の置かれている状況への理解が難しくなる。真夏なのに厚着をして出かけてしまうのはそのためだ。

「認知症が進行すると、まずはなじみのある服を着たりする。夏でも季節外れのセーターを着込んでしまうこともあります。また、記憶障害のためエアコンをつけること自体を忘れたり、リモコンがどこにあるのかわからなくなったりもします」(中森氏)

 いずれの場合も、体調のすぐれないような高齢者を見かけたら周囲の助けが必要だ。

●関連記事【もっと読む】では、猛暑で増える支出をエコノミストが分析 エアコン、冷蔵庫…家計を救う「夏の節約術」について解説する。

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