著者のコラム一覧
小沢コージ自動車ジャーナリスト

雑誌、web、ラジオ、テレビなどで活躍中の自動車ジャーナリスト。『NAVI』編集部で鍛え、『SPA!』で育ち、現在『ベストカー』『webCG』『日経電子版』『週刊プレイボーイ』『CAR SENSOR EDGE』『MONOMAX』『carview』など連載多数。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのカーグルメ』パーソナリティー。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)、『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた 27人のトビウオジャパン』(集英社)など。愛車はBMWミニとホンダN-BOXと、一時ロールスロイス。趣味はサッカーとスキーとテニス。横浜市出身。

どんな人が乗るの?スーパーカー真夏の夜の夢!フェラーリ初SUVプロサングエに乗って考えた

公開日: 更新日:

フェラーリ プロサングエ(車両価格:¥47,600,000/税込み)

 暑い! 生命の限界を感じるほど猛烈に暑い!! てなわけで、いま最も熱いスーパースポーツ、フェラーリ プロサングエ(4760万円!)に乗って熱い葛藤をお届けしよう。

 ……それは「コレはSUVなのか? フェラーリなのか?」という永遠のクルマ好き命題だ。

 プロサングエは22年に京都で日本発表、最近本格デリバリーが始まった新作フェラーリで、筆者も先日試乗がやっと許された。

 いまだかつてない独特存在感だ。骨格は専用のアルミプラットフォームで、エンジンは名作エンツォ・フェラーリに由来する6.5ℓV12DOHC。最高出力725ps、最大トルク716Nmと恐ろしくパワフルで、それをフロントミッドに起きつつ、8段ATをリアに置いたトランスアクスルレイアウトの4WD車。

 前後重量配分は49対51と理想的だ。その結果、時速0-100km加速は3.3秒と文句なしで、まさにフェラーリの名に恥じないパフォーマンス。

公式には「フェラーリ初の4ドア4シーター」だが

 だがポイントは、その縦横高さ比で全長5m弱×全幅2m強のデカさはもちろん、全高約1.6mと完全にSUVサイズに仕上がっていること。今までで「最も背の高いフェラーリ」と言っていい。

 しかし同社はプロサングエを「フェラーリ初の4ドア4シーター」としか言わない。なぜなら世界で最もエクスクルーシブなスポーツカーブランドであるフェラーリは長年、「SUVを作らない」と言い続けてきたからだ。

 なぜなら、プレミアムカーの世界では2002年にポルシェがカイエンを大ヒットさせてからすっかりSUVが主流。メルセデスにBMW、アウディにレクサスはもちろん、2016年にはベントレーがベンテイガ、2018年にはロールスロイスがカリナン、ランボルギーニがウルス、2019年にはアストンマーティンがDBXをリリースし、ハイブランドもSUV抜きでは語れなくなってきた。

 そこで満を持して出てきたのが新型プロサングエであり、これをすんなりSUVと認めていいのか? 否か? というのが我々の悩みなのだ。

「SUVであると同時にリアルフェラーリでもある」が正解

 ここで結論を言ってしまうと、プロサングエは誰から見てもSUVである。ロングノーズの流麗デザインは完全にフェラーリだが、高い全高、観音開きの4ドア、広いリアシートと共に473ℓの大きめトランクがもたらす利便性はSUVというほかはない。

 しかし前述した725psのV12気筒エンジンの甲高く劇場感に満ちたサウンド、力強さに流麗スタイル、ステアリングフィールは、まごう事なきフェラーリ。デカいはデカいが、いわゆる背高SUVにありがちな鈍さやかったるさは一切ない。新型プロサングエは「SUVであると同時にリアルフェラーリでもある」というのが正解なのだ。

 最大のキモは、プロサングエに導入されたフェラーリ初のアクティブサスペンション。これは最新レーシングカーも手掛けるカナダのマルチマチック社と共同開発したもので、前後左右に備えたアクチュエーターが瞬時にサスペンションの長さや減衰特性を変え、SUVにありがちな鈍さを取り去ってしまう。

 実際乗ってみると不思議な感覚だ。ノーズはフロントエンジンフェラーリらしく長い一方、視界はSUV的に高め。

 しかし走り出した途端、背の高さを感じさせない。全長5mの大柄ボディの傾きやステアリングフィールの曖昧さがなく、ビシッとシャープにハンドリングが決まる。視点こそ高いが乗った感じはリアルスーパースポーツなのだ。

今まで乗ってた普段履きプレミアムSUVの代わり

 それでいて硬派なフェラーリらしからぬほどエンタメ性能も充実しており、前席は10.2インチのダブルディスプレーで車両設定は自由自在。空調も完璧で、高級セダンさながらの4ゾーンエアコンはもちろん、4座独立したシートヒーターにシートベンチレーションまで完備。硬派なスポーツカーマニア向けというより快適装備を満載した、いまどきのお金持ち用超プレミアムSUVである。

 聞けばフェラーリオーナーのほとんどがクルマを複数所有しており、フェラーリとベントレーとか、フェラーリとロールスロイスとか時に高級ミニバンとか、「趣味でフェラーリ」に乗り「普段は実用的なSUVやセダン、ミニバン」という人が多い。そういう人にとってプロサングエは既存フェラーリの代わりではなく、今まで乗ってた普段履きプレミアムSUVの代わりなのである。

 タマの祝祭日は背の低いフェラーリで、土日も家族と背の高いフェラーリに乗りたい! という贅沢な需要があるのだ。お金持ちの欲望とは、かくも終わりのないものなのである。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • トピックスのアクセスランキング

  1. 1

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  2. 2

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  3. 3

    吉村府知事が語った大阪万博の「魅力」に失笑買い話題騒然!地方局TV情報番組で売り込み発言も具体性ゼロ

  4. 4

    開幕まで2カ月も大阪万博ご難続き…入場券販売不振で“政敵”に泣きつき、海外パビリオン完成もわずか数カ国

  5. 5

    日経新聞コラム「私の履歴書」で、伊藤忠の“ドン”岡藤正広会長の肝心なネタがスルーされた思惑

  1. 6

    ドミノ・ピザ大量閉店で見えた業界の“地殻変動”…今やライバルは、ピザハットとピザーラだけにあらず

  2. 7

    「貸金庫事件」の三菱UFJ銀行・半沢淳一頭取の全銀協会長就任にOBらが懸念

  3. 8

    ガソリン全国最高値の長野県「石油商業組合」に独禁法違反の疑いでメス! 公取委が重い腰上げた裏に自民の弱体化か

  4. 9

    大阪万博“引き抜き人事”に労組が抗議書提出の異常事態…府職員からは「通常業務さえままらない」の悲鳴

  5. 10

    マクドナルドは売上高・営業益とも過去最高を更新も…カリスマ不在でブランドを維持できるのか

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出