本の森
-
「非国民な女たち」飯田未希著
「ぜいたくは敵だ」「パーマネントはやめましょう」といった標語が掲げられた戦時期の日本女性といえば、真っすぐな髪を後ろで束ねモンペをはいた姿が思い浮かぶ。戦時体制の下、世を挙げて華美なファッションが忌避…
-
「『色のふしぎ』と不思議な社会」川端裕人著
学校健診でかつて行われていた色覚検査は差別につながるということで2003年に事実上廃止されたが、15年ごろからほぼ復活している。「児童生徒が自身の色覚の特性を知らないまま不利益をうけることのないよう…
-
「HANDS 手の精神史」ダリアン・リーダー著 松本卓也ほか訳
電車内でスマホの画面をいじっている姿はすっかり馴染みの光景となった。そこで目につくのはしきりに画面をタップしたりスクロールしている手の動きだ。こうした動きは以前になかったもので、現代の若者の中には紙…
-
「旅ごころはリュートに乗って」星野博美著
リュートは洋梨を縦に割ったような、丸っこい形をした複弦の撥弦楽器。ルネサンス期には「楽器の女王」と呼ばれ、ヨーロッパ各地で愛好された。天正遣欧使節について調べているうちに、日本に戻った同使節が豊臣秀…
-
「民衆暴力」藤野裕子著
年明け早々、トランプ大統領支持者らが米連邦議会に乱入し、5人の死者を出すという事件が起きた。トランプのツイッターによる扇動が要因とみられているが、大勢の人々が窓ガラスを割って押し入る映像は、民衆の中…
-
「つげ義春 『ガロ』時代」正津勉著
昨年2月、第47回アングレーム国際漫画祭でつげ義春が特別栄誉賞を受賞。授賞式に出席したつげは82歳にして初めての海外旅行だったという。 同年4月、「つげ義春大全」全22巻が刊行、フランス語や…
-
「キリン解剖記」郡司芽久著
キリンは決して身近な存在ではないし、その解剖となればとんでもなく珍しいように思うのだが、日本には現在150頭のキリンが飼育されており、「キリンの解剖を経験したことがある人は結構存在している(日本だけ…
-
「くそじじいとくそばばあの日本史」大塚ひかり著
前世紀末、赤瀬川原平は物忘れが激しくなるなど一連の老化現象を「老人力」と名付けて、マイナス要因とみられていた「老い」をあえて逆転させてみせた。 本書のいう「くそじじい、くそばばあ」にもそうし…
-
「歪んだ正義」大治朋子著
新聞記者としてワシントン特派員、エルサレム特派員などを歴任し、テロリズムに間近に接した著者は、テロリズムの心理を学ぶために2年間休職留学してイスラエル・ヘルツェリア学際研究所で学ぶ。講義の冒頭で、教…
-
「誓願」マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳
米国のキリスト教原理主義一派がクーデターで興したギレアデ共和国では、出生率の著しい低減に危機感を募らせ、全ての女性から仕事と財産を没収、妊娠可能な女性たちを「侍女」としてエリート層の男性に派遣する―…
-
「フィッシュ・アンド・チップスの歴史」パニコス・パナイー著 栢木清吾訳
まずい料理の代名詞というありがたくない評判を冠せられているイギリス料理だが、その理由としては、下味をつけない、食材が少ない、家庭料理の衰退などいろいろな理由が挙げられている。 それはともあれ…
-
「世界は幾何学で作られている」アミーア・アレクサンダー著 松浦俊輔訳
「この偉大な書物、つまり宇宙は数学の言葉で書かれており、その文字は三角形や円などの幾何学的図形」であると言ったのはガリレオ・ガリレイだ。古来、幾何学は完璧な秩序、回想、調和を表し、普遍的な秩序の象徴で…
-
「音楽を感じろ」ニール・ヤング&フィル・ベイカー著 鈴木美朋訳
映画「いちご白書」で、主人公のサイモンとリンダが買い出しから帰ってきて仲間の待つ講堂のドアを開けるのとほぼ同時にニール・ヤングが歌う「ヘルプレス」が流れてくる。川を照らす真っ赤な夕焼け、夕空に浮かぶ…
-
「『役に立たない』科学が役に立つ」エイブラハム・フレクスナーほか著 初田哲男監訳 野中香方子ほか訳
基礎科学とは、真理の探究そのものが目的とされ、応用化学のようにすぐには「役に立たない」が、長期的な社会課題の解決や新産業の創出に欠かせないものだ。 本書はプリンストン高等研究所の現所長、ダイ…
-
「女ともだち 靜代に捧ぐ」早川義夫著
1960年代末、ロックバンドのジャックスは独特のオーラをまとい、その後のロックシーンに大きな影響を与えたが、短い活動の後に解散。その後、中心メンバーの早川義夫が本屋さんになり、「ぼくは本屋のおやじさ…
-
「目に見えない傷」レイチェル・ルイーズ・スナイダー著 庭田よう子訳
2017年、世界中で5万人の女性がパートナーまたは家族によって殺されている。アメリカでは毎月15人の女性が親密なパートナーによって“銃”で殺されている。こうした事実があるにもかかわらず、これまでDV…
-
「白い病」カレル・チャペック著 阿部賢一訳
中国発の新しい病気で、優に500万人が亡くなり、1200万人が罹患(りかん)し、少なくともその3倍の数の人間が無症状のまま世界中を駆けずり回っている――現在のCOVID―19を彷彿(ほうふつ)させる…
-
「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」田中ひかる著
菅新政権の看板政策のひとつに不妊治療の保険適用がある。少子化対策の一環として打ち出されたものだ。少子化が問題になって久しいが、昨年の合計特殊出生率は1・36で、戦後のベビーブームの1947年には4・…
-
「心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋」斎藤環・與那覇潤著
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、失業や業績悪化による経済的不安をはじめ、リモートワークや時差出勤から通常勤務に戻った際にうまく適応できないなど、さまざまな不安が蔓延(まんえん)している。多くは軽…
-
「〈うた〉起源考」藤井貞和著
何事につけてもその起源を問うことは難しい。たとえば、本書の主題たる〈うた〉という言葉。有名なのは、本居宣長から平田篤胤、そして折口信夫が提唱した「うつたへ(訴え)」を語源とするもの。その他に「うちあ…