「誓願」マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳
米国のキリスト教原理主義一派がクーデターで興したギレアデ共和国では、出生率の著しい低減に危機感を募らせ、全ての女性から仕事と財産を没収、妊娠可能な女性たちを「侍女」としてエリート層の男性に派遣する――虐げられた女性と徹底した管理社会の姿を描き話題を呼んだ「侍女の物語」。
それから34年の時を経て、続編が発表された。
前作は「侍女」のオブフレッド(フレッド司令官のものという意味)の単独視点だったが、本作は3人の語り手が登場する。前作で侍女たちを痛めつける恐ろしい教育係として登場したリディア小母。司令官の一人娘のアグネス。そしてカナダのトロントの古着屋の娘のデイジー。
ギレアデでは女性は4つの階級に属する。最上位は唯一読み書きができ、女性たちの管理・教育に携わる幹部階級の〈小母〉。次が司令官及び平民男性の〈妻〉と〈妻〉候補の娘。3番目が女中役の〈マーサ〉。最下位が子供を産めない〈妻〉の代わりに子供を産む役の〈侍女〉。
リディアは小母の中でトップに君臨する女性社会の最高指導者。アグネスは2番目の妻候補だが結婚に否定的。デイジーの両親はギレアデの諜報組織によって殺され、彼女にはある任務が与えられる。立場も環境も異なり何のつながりもないかに見えた3人のモノローグが、物語が進むにつれて徐々に一つに収斂(しゅうれん)していく。
前作から15年経過したギレアデでは、各地で反乱が起こり、外国からの干渉も高まるなど政権の基盤が揺らいでいた。また南北戦争時代の奴隷の北部(カナダ)への逃亡を援助した〈地下鉄道〉さながらの侍女の逃亡支援組織にも頭を悩ませていた。
そんな中、リディア小母は自らが張り巡らした諜報網を駆使して、ある計画を画策し、その重要な役割をアグネスとデイジーが担うことになる……。
「侍女の物語」が刊行された1985年当時は、寓話(ぐうわ)的な装いが感じられたのだが、この続編ではリアルな警句として受け止められてしまうのは、閉塞するこの時代の不幸なのだろうか。 <狸>
(早川書房 2900円+税)