「HANDS 手の精神史」ダリアン・リーダー著 松本卓也ほか訳

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 電車内でスマホの画面をいじっている姿はすっかり馴染みの光景となった。そこで目につくのはしきりに画面をタップしたりスクロールしている手の動きだ。こうした動きは以前になかったもので、現代の若者の中には紙のページをめくる際にもスクロールの動作を行う者がいるという。

 本書の著者はそうした変化を「人間が自分の手を使って行うことの変化」と捉え、その顕著な例が「前例のないほどさまざまな方法で、手を忙しくしておくことができるようになった」ことだという。

 とはいえ、手を忙しくさせているという事実は新しいものではなく、編み物、書き物のように人間は常に手を使ってきた。逆にいえば手を遊ばせることを忌避している。では、手を遊ばせておくことにはどんな危険があるのか。絶え間ない手の活動は、実際にどんな役割を果たしているのか、また、その役割は幼児期にどのように変化していくのか……。

 こうした問いを、著者はひとつひとつ解いていく。たとえば、新生児の手と口の関係を観察していると、当初手は口によってその動きを支配されているが、視覚を得るようになると徐々にその支配から脱していくようになる。ここに著者は「手」という独特な器官の特徴を見ていく。

 手は何かを行うための道具・手段であると同時に能動的に自律する器官でもある。それは映画の「キラーハンド」をはじめ、手が独立して(あるときは体から離れて)勝手に動き出す物語が多くあることからもわかる。ゾンビやフランケンシュタインなどが一様に自分の目の前に手を差し出した状態で歩くのは、彼らが純粋な目的を持っていることを暗示しているからだという(本書には出てこないが日本の幽霊の手の動きはどう解釈できるのか)。

 また自分の意思と無関係に手が勝手な動きをする「エイリアンハンド症候群」も、そうした手の自律性を示す症例だという。

 精神分析家の著者は、さまざまな文献や症例を駆使して、普段見慣れたのとは違う多様な手の世界を教えてくれる。 <狸>

(左右社 2200円+税)

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