「ルポルタージュ イスラムに生まれて」読売新聞中東特派員著

公開日: 更新日:

 五輪組織委会長森喜朗の女性蔑視発言は、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治などの自由をうたったオリンピック憲章に反するものとして激しく批判された。しかし本書によると、厳格なイスラム主義を奉じるサウジアラビアでは女性がスポーツすることが禁止されていて、2012年のロンドン五輪に初めて柔道と陸上競技の女性選手が派遣された。

 同じイスラム国のイランでは長い間、女性のスポーツ観戦が規制されるなど、スポーツのジェンダー平等から遠いところに置かれているという。スポーツに限らず、イスラム圏に生きる女性たちはどんな生活をしているのか。

 本書は、現代イスラム女性の実像をテーマ別、世代別に掘り下げたルポルタージュだ。

 男系継承を原則とするイスラムでは男児を産むことが女性の大きな役目であり、男児が生まれないことで夫婦間の亀裂が生じる。女性の性欲を抑える(と信じられている)ために行われる女性器の割礼も問題だ(エジプトでは08年に法律で禁止されたが、15年の調査ではまだ87%の女性が割礼を受けている)。

 性行為は夫婦間のみに認められているため、新婚初夜まで処女のまま育てるという「名誉」を奪われたとして、婚前交渉を知られた女性が自らの親族によって殺害される「名誉殺人」、レイプの加害者が被害者と結婚すれば罪に問われない法律の存在など、知られざるイスラム女性の実態が明らかにされていく。

 しかし、こうした旧来の女性の位置づけに異を唱える女性たちも現れている。家庭外で肌を人目にさらすことを禁じられているため、工夫された体の線が出ない水着を考案して海水浴を楽しむ女性たち、黒一色だった伝統衣装に鮮やかな色彩を取り込んだデザイナー、門戸を閉ざされていた司法の世界に入って女性ならではの視点を法廷に持ち込んだ女性裁判官ら、少しずつだが自由への道を模索する動きが出てきている。

 宗教的厳格さと女性の解放を両立させるのは容易ではないだろうが、彼女らの努力が実を結ぶことを願いたい。 <狸>

(ミネルヴァ書房 2400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭