第1話 じゃりン子チエは神 <2>
誰よりも喜んでいたのは、大手スポーツメーカー・コーガに勤める妻の莉乃だ。自分が売り込んだわけではないと真顔で否定していたが、三男は今でも妻のことを多少疑っていた。いずれにしても、新体操選手山田美岬は一夜にして有名人になってしまったのである。
千春の担任・井波先生がしっかりした方で、からかった男子たちを厳しく叱り、電話で三男に事情を伝えてくれた。千春も謝罪を受け入れたというが、心に負った傷はよほど深かったようで、家でも学校でもまったく口をきかなくなってしまい、三男は頭を抱えた。
唯一幸いだったのは、美岬が日本代表の合宿に入ったことだ。家で顔を合わせれば、どうしたって気まずいし、こんなことが原因で姉妹が仲違いされてはたまらない。
三男は気分転換に東京ディズニーランドに行こうと誘ったが、千春は頑なに首を横に振るだけだった。
(つづく)