学生運動を背景にした平安貴族の残酷趣味を描く「地獄変」
娘を阿鼻叫喚の焦熱地獄に突き落とされた老絵師の「芸術至上主義」がメインテーマだが、「違い」を味わうのも面白い。まず役者。演劇出身の仲代は声の抑揚を殺して隠忍自重の苦しみを表現。歌舞伎役者の錦之助は高らかに笑い、怒鳴りつける。水と油ほど性質の違う演技が衝突。今見ると錦之助の演技はややサイケデリックな印象だ。
原作との違いも興味深い。公開が学生運動が盛んな69年だったせいか、映画はレジスタンスの一団が大殿を襲撃する抵抗運動を盛り込んだ。「権力者VS民衆」だ。大殿をネズミをいたぶる猫さながらのサディストとして描いた脚本は当時の若者たちの野党的精神を刺激したことだろう。
権力者の残酷趣味を周囲が止められないのはヒトラーの悪行を見れば分かる。この数年間の日本の保守政治もしかり。権力は何でもできる。それを支えてきたのが現代の民衆とは皮肉な話だ。
(森田健司)