長谷川初範さん 「飢餓海峡」で若山富三郎とガチンコ勝負
音を上げないので最後は両足でカニバサミ
当日、若山さんは恩地監督に「監督、ここは“手”を決めません。長谷川、いいな」。有無を言わせない強い意志を感じました。“手”を決めないとは、打ち合わせをせず、真剣勝負で組み手を行うということです。
撮影が始まるや、柔道4段の腕前の若山さんは一切手抜きなし。送別会の後という設定でしたから、靴下ははいたまま。それで、踏ん張りが利かないってこともありましたが、なす術もなくポンポン、ポンポン投げられっぱなしでした。カメラは回したままで、休憩もなく20回、30回と投げられたら結構キツイ。それでも僕はすぐに起き上がって立ち向かいました。
実は高校2年の時にアメリカへ1年間留学していて、現地ではレスリング部に所属していたんです。コーチは海兵隊上がりでトレーニングは海兵隊スタイルだけにかなりハード。それを経験してるので、体力だけでなく投げられ強さも身についていたんです。
どんなに投げても投げても音を上げないものだから、若山さんはとうとうプロレスよろしく両足でドロップキックをしてきました。それを払いのけたことが怒りを倍増させてしまい、次は両足でカニバサミ。もう収拾がつきません。
慌てた恩地監督が「終わり、終わり、終わりー!」と割って入ってきて、ようやくカットになりましたが、あれほど長い組み手は今でも経験がないですね。
■その後の俳優人生の大きな糧に
翌日、また撮影現場に行き、若山さんにご挨拶したら目を丸くしてびっくりされました。
「体痛くないのか」
「はい、大丈夫です」
「俺と組み手やると気絶するか失禁するか、最悪は大ケガするんで有名なんだ」
そんなこと聞いてませんよ(笑い)。「ケガをしなかったのは、おまえは恐れを知らないからだ」と少し褒めていただきました。そんなご縁があり、以降も若山さんは何かと目をかけてくださいました。亡くなられてもう26年経ちますが、芝居にはものすごく厳しかった若山さんに出会えたことは俳優人生の大きな糧になっています。
■木下グループ presents「№9―不滅の旋律―」稲垣吾郎、剛力彩芽主演で楽聖・ベートーベンの生涯を描く。長谷川さんはベートーベンに作曲を依頼する商人役。11月11日~12月2日(東京・TBS赤坂ACTシアター)、12月7~10日(大阪・オリックス劇場)、22~25日(KAAT神奈川芸術劇場)