天童よしみが回顧 亡き父との忘れられないフィリピン旅行

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 私の故郷でもある和歌山の田辺湾に面した高台に、父親のお兄さんが眠るお墓があります。私が25歳のころ、父母と大阪に住んでいて、一緒によくそのお墓参りに車で行ったんですね。海に近づき、潮の香りがすると「窓を開けてごらん。もうすぐ海が見えるよ」って必ず父親が言っていたのを思い出します。「故郷の香り」なんだよって言っていましたね。

 そして、お墓参りに行けば、必ず田辺湾の砂浜を歩くのが家族の思い出でした。お墓参りの時はいつも父親はきちんと三つ揃えにネクタイをしていたのですが、それにはワケがありました。

 私が16歳の時「象印スターものまね大合戦」という番組で大賞を取ってフィリピンのレイテ島へのプレゼント旅行が当たったんです。往復の飛行機チケットとヒルトンホテル5日間の宿泊券。父親は11人兄弟だったのですが、太平洋戦争中、兄2人を日本海軍がほぼ全滅したレイテ島で亡くしているんです。私にとっては初めての海外旅行でしたが、父親と2人でレイテ島に行くことになりました。今でも忘れません、レイテ湾に到着した時に父が感極まって「兄貴ー! 来たよー!」って大きな声で叫びました。私はまだ子供でしたが、ものすごい父の兄弟愛を感じましたね。お兄さんたちと親しかったんだなって、あらためて思いましたね。

 その旅行では奇妙な経験もしました。その当時のフィリピンはまだ戦争の名残もあって、とても怖かった。それなのに、父はなぜか私を1人ホテルに残したままいなくなってしまったんです。不安のまま待っていると部屋がノックされて、「ムカエニキマシタ。ヨシミサンデスネ」って、片言の日本語が聞こえて。私はその瞬間、父がきっと誘拐されたに違いないって思いました。恐る恐る迎えに来た現地の2人の青年について行くと、「サボイ」という名前のレストランに。日本人の女将さんが出てきて「よしみちゃん!」ってハグされたけれども、何が起きているのかわからない。レストランの奥は宴会で盛り上がっていて、父はそこでフレンドリーに飲んだり食べたりしてる。呆れてものが言えませんでした。泣きながら「ここはフィリピンなのよ!」って怒りましたよ。

 でも、父は「子供のおまえでも楽しめるようなところがないか、探していた」んですって。そしてその店で日本食と日本酒を飲みながら、日本人の女性といろんな話をしているうちに青年たちとも意気投合してしまい、その揚げ句、「ホテルによしみを迎えに行ってくれますか」と頼んだと言うのです。私は死ぬほど怖かったのに。父親はとても社交的なところがあって垣根なくいろんな人と話をして仲良くできる人でしたから、わかるんですけどね。

 とにかく父にとっても私にとっても一生忘れられない思い出のフィリピン旅行になりました。父はお兄さんたちが夭折した場所を訪ね、和歌山のお墓参りには礼節を尽くしていくと決めているんですね。

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