「夜の蝶」京マチ子と山本富士子が火花バチバチの名演技
マリは情報を得るためなら簡単に客と一夜を共にする女。おきくは資金繰りのために白沢と愛人関係にある。貞操観念もクソもない打算ずくめの世界だが、おきくは実力者を手玉に取りながらも、原田の前では一変。純情可憐な尽くす女の表情を露呈する。計算高い女も好きな男と幸せになりたいという願望に夢見心地だ。テレビが普及していない時代に、地方の映画館の観客は銀座の蝶たちの二面性に唖然としただろう。
見どころはラスト。マリは意趣返しとばかり電話でおきくをこき下ろす。利口で冷静なおきくは挑発されて激高。美女の間を皮肉と憎しみが飛び交う。まさに大女優による火花バチバチの名演技。今の映画界にここまで表現できる女優がいるだろうか。マリは暖色の着物、おきくは冷色の着物と対照的な色合いも女の対決を盛り上げた。電話越しの場面の切り返しもお見事。
すべてが終わった時、秀二は女たちのしたたかさに呆れて路上にたたずむ。欲望と計略の銀座。今夜も女たちは裏切り、裏切られの人間ドラマを闘っているのだろう。 (森田健司/日刊ゲンダイ)