米国版「深夜食堂」ある男の1週間がコミカルでやみつきに
多くはつましく暮らす庶民で、ローラは菓子が285個売れたからお祝いしようとはしゃぎ、インド人は家族のことで愚痴を連発。バーの黒人青年は失恋し、マスターは妻にどやされる。まるで米国版「深夜食堂」。実にほほ笑ましい。家の近所にこんな店があったら楽しいだろう。
パターソン市は人口15万人。主人公はここに生まれてここに育ち、おそらくこの地で死ぬのだろう。その彼を日本の詩人が預言者のように勇気づけて去っていく。詩人の相づち「ア~ハァ」が絶妙。永瀬はいい役をもらったよ。
この映画は何が面白いのか分からない。ただ、バーやバスの会話にかつてわれわれ日本人が営んでいた触れ合いが感じられるのだ。人々は主張し、ぼやき、そして悲しむ。それをパターソンとマスターが受け流し、ときに受け止める。緩やかな交わりが米国流の人情であるらしい。こうして穏やかな暮らしが続いていく。久しく忘れていた人情が米国映画で蘇えるとはいささか皮肉なめぐり合わせ。感動のポイントに国境はないということか。
(森田健司/日刊ゲンダイ)