林家木久蔵×三遊亭鬼丸の新春放談 落語の未来を大いに語る
2020年は落語界もコロナ禍の影響を大いに受け、台風でも大雪でも閉めたことがない寄席も公演中止を余儀なくされた。客席制限が続く中、いつになったら寄席に笑いは戻るのか。ご存じ(!?)、2代目林家木久蔵と三遊亭鬼丸の2人が、せんえつながら落語界の未来について大放談。
◇ ◇ ◇
鬼丸「嫁さんに今回の企画を話したら2020年一番の勢いで噴き出してました」
木久蔵「これは本当に言葉には気を付けないと、この人がトラップを仕掛けてくるから(苦笑い)」
鬼丸「あにさん(=木久蔵)はコロナ期間中はなにしてました?」
木久蔵「こんなに家にいたの初めてだったね。芸人感が抜けてどんどん普通の人になっていくというか。おれはレギュラーの仕事はほとんどなくて2、3年前から営業に特化していたのね。落語会、講演会、豪華客船の旅での落語会、木久蔵ラーメンを売るデパートの物産展。この4本の矢があるから人生は安泰だと思ってたの」
鬼丸「キクノミクスだ。毛利元就でも3本なのに」
木久蔵「そう。おれの方が1本多いと思ったらコロナで4本全部がボキッ。おまけに2020年は木久扇師匠の芸歴60周年もあったから5本の矢のはずが……。自分の中では分野が違う仕事のはずが実はひとくくりだったのにビックリした」
「3カ月ぶりの寄席の楽屋はM-1の2回戦くらいの緊張感」
鬼丸「ぼくもラジオの仕事はあったけどずっと家にいて、デビュー以来こんなにしゃべってないのは初めて。3カ月ぶりに寄席に出たら前座の初高座か勉強会のネタおろしのような緊張があった」
木久蔵「新宿末広亭であの桂文楽師匠が“いや3カ月ぶりだよ。落語できるかしら”って本当にドキドキしてるの」
鬼丸「楽屋がM―1の2回戦くらいの緊張感でしたからね」
木久蔵「前座の(古今亭)まめ菊に師匠が緊張してるからアドバイスしてといったら“声は大きく”だって」
鬼丸「前座にイジられてる(笑い)」
木久蔵「でもコロナでレギュラーの大事さが身に染みたね」
鬼丸「3月いっぱいでレギュラーが打ち切りになる志らく師匠はどんな気持ちでしょうね」
木久蔵「帯のレギュラーはデカイよ」
鬼丸「でもこの自粛の期間は芸人の性格が出るし差がつきますよね。勤勉な人は話の稽古したり、ネタをさらったり」
木久蔵「おれは一切しなかった(苦笑い)。だいたい落語会があるから仕方なく稽古する。先があるからやるもんなんだよ」
鬼丸「ぼくも末広で(五街道)雲助師匠に会ったら“稽古なんてしねーよ”って。師匠でもそうかと」
木久蔵「出来上がった人とそうでない人は違うでしょ」
鬼丸「でもあにさん、いっ平時代の(林家)三平あにさんとの内幸町での2人会のこと覚えてます? 台風が発生した途端にすぐ中止決定。進路変えても関係なし(笑い)」
木久蔵「三平あにさんが“これは中止だな”と言うからおれも“もちろんですよ”と」
鬼丸「もともと(春風亭)小朝師匠に“やれ”と言われて嫌々やってた会だから。三平あにさんなんて見られたくないから知ってるお客を呼ばないとかね」
木久蔵「おれは何も言ってないからね」
鬼丸「そんなあにさんも芸歴26年です。弟子は?」
木久蔵「これまで2人、志願者は来たよ。結果的に断ったけど。向こうも人生を懸けてくるわけだからね」
鬼丸「どんな子でした?」
木久蔵「ゆっくりお話ししたいので一度、お店に来てくださいって。銀座のおねえさんだった」
鬼丸「営業じゃねーか(笑い)」
木久蔵「シャレじゃなくて本気だからってアレンジした『明烏』の台本持参で自分で芸名もつけてた。林家ホステスだって」
鬼丸「(爆笑)。で、もうひとりは?」
木久蔵「和歌山の図書館で働いてる子だった。“YouTubeで見ました”って言うから、おれもYouTubeの落語で人生を懸けさせるほどの話術が身に付いたのか、うれしいなあと」
鬼丸「それでそれで」
木久蔵「でもなんで? と。和歌山なら大阪の方が近いし上方の落語家に弟子入りの道もあったはず。で聞いたら大阪だと実家に甘えちゃうからと。おれ、いまだに実家に甘えまくりなんだけどなあ。そんなきちんとした人はおれの弟子にはダメだなと(苦笑い)」
鬼丸「自宅のスポーツ新聞代まで実家に払ってもらってますからね」
もし会長になったら…
木久蔵「母親に、芸人の息子なのに25年間よく働いた。45歳だけどマイクの代わりにセンスを高座に置いて山口百恵みたいに引退してもいい? って聞いたら、冗談でしょ。もっと働きなさいって怒られたよ」
鬼丸「変なクスリやらないだけ親孝行ですよ。でもあにさん、前座時代に落語協会の会長になったら何がやりたいです? って大それた話をしたの覚えてます? そうだなあ、お正月とお盆は寄席を休みにするって(笑い)」
木久蔵「落語家にとって正月とお盆とGWが一番の稼ぎ時だからね。稼ぎ時だから寄席を休みにしようと思ったんだよ。地方で営業できるから」
鬼丸「飲んでるときに、おれ、オヤジがたまたま落語家だったから落語家になったの。金物屋だったら金物屋。魚屋だったら魚屋。親ってさあ、自分の職業を継ぐと喜ぶじゃんって話したの覚えてる?」
木久蔵「うん」
鬼丸「ぼくの前ではいいけど他の落語家の前で言っちゃだめだよ。もっとみんな高いモチベーションで入ってるからってね(笑い)」
木久蔵「でも今の二つ目とかは本当に落語がうまいよね。昔と違ってYouTubeとかで名人のしぐさも勉強できるからみんな器用だよね」
鬼丸「寄席のレベルも本当に高い。だから逆にお客は気を抜く暇がない」
木久蔵「もし鬼丸が会長になるならどんな公約を掲げる?」
鬼丸「前に好楽師匠の息子の王楽と飲んでいるときに話したんですけど、立川流と円楽党も統一して寄席をもっと自由競争の場にしたいなあと。なんか落語が高尚になってる気もするし。大衆芸能なんだから、もっとカジュアルにしたいです」
木久蔵「東西で1000人近い落語家がいるしね。いろいろ解決しなきゃいけない問題もあるけど落語協会の理事も若返ってる。柳家三三あにさんはぼくが入った時の一番上の前座だったんだから」
鬼丸「ぼくらが言うと鬼が笑いますかね」
(構成=米田龍也/日刊ゲンダイ)
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▽はやしや・きくぞう 1975年、東京生まれ。95年、玉川大学文学部在学中に父である林家木久蔵に入門。前座名は「きくお」。99年、二つ目昇進。07年、真打ちに昇進し、父の名、2代目「林家木久蔵」を襲名。
▽さんゆうてい・おにまる 1972年、長野県上田市生まれ。97年、三遊亭円歌に入門。前座名は「歌ご」。00年、二つ目に昇進し「きん歌」に改名。10年、「三遊亭鬼丸」襲名で真打ち昇進。NACK5「ゴゴモンズ」メインパーソナリティー。