先輩に「漫才になって“やすきよ”に勝てるんか」と諭されて

公開日: 更新日:

 初代幸枝若と2代目は声と節だけでなく、風貌もそっくりである。それはいいことなのだろうか。

「悪いことのほうが多いですな。師匠の前に、よう似た弟子が出て、同じ節をやる。それが師匠にとっては邪魔やったんでしょう。ある時、業界の人を通じて、『浪曲をやめたらどうや』と言われたこともあります。初代が言うには、『おまえがおったら俺が損や。おまえも俺がおったら看板になれん』ということらしい。『ケツの穴の小さいおっさんやなあ』と思いました(笑い)。それで、『俺は幸枝若節が好きでやっとるんやから、絶対やめまへん。師匠にそう言うといて下さい』と返答しました」

 なんとも壮絶な師弟関係、いや親子関係である。

 福太郎は吉本興業に所属して、吉本系の劇場に出るようになった。

「そのうち漫才ブームが来て、漫才師の天下ですわ。どこの劇場も超満員で、そこに私が出ると、客がぞろぞろとロビーに出て、たばこ吸ったり売店で飲み物買ったりしてる。ロビーが満席です。客席に残ってるのは年寄りばかり。舞台に上がっても拍手せえへん」

Wヤング・平川幸男さんの言葉が身にしみた

 それは芸人としてつらい状況である。福太郎はどう対処したのか。

「そこで出囃子を派手なのに変えて、落語家みたいに高座に座った。『落語やと思いましたやろ。実は浪曲です』と、左甚五郎もので落語にもなっている『竹の水仙』のあらすじをしゃべって、それから節をやって20分の高座を終わる。そんなやり方をしたり、時には『王貞治物語』みたいな新作をやったこともありますが、何をやっても受けない。自信をなくしました」

 悩む福太郎を励ます先輩がいた。

「漫才のWヤングの平川幸男さんです。食事に誘われた際、私が『浪曲をやめようかと思うてます』と言ったら、たしなめられました。『浪曲やめて漫才になって、やすきよ(やすし・きよし)に勝てるんか。落語家になって仁鶴に勝てるんか。浪曲やっとりゃ、おまえしかできんものがあるやろ。我慢せえ。順繰りに浪曲が受ける時代が来る。その時のために芸を磨いて備えておくんや』と諭されたんです。その言葉が身にしみました」

 先輩というのはありがたいことを言ってくれるものだ。目が覚めた福太郎は浪曲に精進する。 =つづく

(聞き手・吉川潮)

▽京山幸枝若(きょうやま・こうしわか)本名・福本一光。1954(昭和29)年、兵庫県姫路市出身。73(昭和48)年、父である初代京山幸枝若に弟子入りし福太郎を命名、父譲りの声節で若くして人気者に。2004(平成16)年、「2代目京山幸枝若」を襲名。代表作は「会津の小鉄シリーズ」「左甚五郎シリーズ」など。公益社団法人浪曲親友協会会長。 

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  4. 4

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  5. 5

    元フジ中野美奈子アナがテレビ出演で話題…"中居熱愛"イメージ払拭と政界進出の可能性

  1. 6

    広末涼子が危険運転や看護師暴行に及んだ背景か…交通費5万円ケチった経済状況、鳥羽周作氏と破局説も

  2. 7

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  3. 8

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  4. 9

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  5. 10

    中居正広氏、石橋貴明に続く“セクハラ常習者”は戦々恐々 フジテレビ問題が日本版#MeToo運動へ

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広末涼子が危険運転や看護師暴行に及んだ背景か…交通費5万円ケチった経済状況、鳥羽周作氏と破局説も

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  4. 4

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  5. 5

    露呈された韓国芸能界の闇…“兵糧攻め”にあうNewJeansはアカウントを「mhdhh」に変更して徹底抗戦

  1. 6

    大阪万博ハプニング相次ぎ波乱の幕開け…帰宅困難者14万人の阿鼻叫喚、「並ばない」は看板倒れに

  2. 7

    大阪・関西万博“裏の見どころ”を公開!要注意の「激ヤバスポット」5選

  3. 8

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  4. 9

    広末涼子が逮捕以前に映画主演オファーを断っていたワケ

  5. 10

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い