新宿末広亭の変わらぬ日常 緊急事態宣言下で通常営業続行
「やっちゃいけないって思いながらやっちまうのが、余計に面白い」
政府から原則無観客でのイベント開催が要請される中、「寄席は社会生活の維持に必要なもの」として、浅草演芸ホールなど都内4演芸場での有観客上演の続行を決めた東京寄席組合ならびに落語協会、落語芸術協会。賛否両論あるが、来場した客からは「決定に賛同だから来たよ」といった主義主張のアピールは見られない。とはいえ、「その話は聞きたくない」というでもないのは、コロナのネタを世評と同じように受け入れて、盛り上がることで分かった。演者たちも、来場の感謝を口にしつつ、ちゃあんとネタとしてコロナを扱う。春風亭一之輔は登壇後、こんなふうに切り出した。
「本日はなにかと難しいところ、ありがとうございます。後ろめたい、やっちゃいけないって思いながらやっちまうのが、余計に面白いってもんでしょ」
このときは、どっと沸いた。昨年の緊急事態宣言で4月上席の真打ち披露は8月上席に、5月のは10月中席に変更し、ようやく興行再開となった際の末広亭も、客席は待ってましたと、とりたてて大盛り上がりすることなく、いつも通りに楽しむ演芸ファンの姿があったといい、そうしたところも世知辛い社会から一時でも離れ、一息つくことのできる大衆娯楽の良さ、ゆとりだと言っていた。楽屋では、「本当にやってんのか知りたくて、見に来たんですよ」と軽口を叩いて、寄席を訪れた観客の気持ちを推察したそうだ。政治や行政に黙って従うだけじゃない、江戸っ子からの気質、反骨、遊び心を感じたのかも知れない。
感染対策として、場内の飲食のうち食も禁止だったが、すきっ腹でコンビニのおにぎりを出すと、スタッフは入り口脇にちいさな木の椅子を用意してくれた。そこで食べていると、スマホを向けてくる通行人もいたが、この日は昼夜入れ替えもなく、のんびりと古典芸能に酔いしれることができた。
(取材・文=長昭彦/日刊ゲンダイ)