映画「走れロム」が描くベトナムのタブー 勝てない“闇くじ”に託すしかない人生
■一党独裁が招いた無法の賄賂社会
主人公は、くじの予想屋をしている孤児の少年だ。少年の目を通して描かれる、闇くじで人生を狂わせる大人たちの姿は時に滑稽で、また物悲しくもある。ベトナムは経済成長の真っただ中にあるが、庶民は物価高騰に苦しんでいる。彼らには、貧しさから抜け出す術がない。だから勝てるはずもない闇くじに夢を託す。
実は、闇くじはSNSを通じ、日本にいるベトナム人実習生や留学生の間でも広まっている。彼らはベトナムでも貧しい層の若者たちだ。出稼ぎ斡旋業者に支払う手数料を借金に頼って来日する。しかし思ったほど日本では稼げず、借金の返済も進まない。そんな中、母国で慣れ親しんだ闇くじにハマってしまう。
闇くじと同様、日本への出稼ぎ送り出しもベトナム政府関係者には大きな利権だ。実習生たちの借金が膨れ上がる背景にも、送り出し業者から関係者に渡る賄賂の存在がある。
本来であれば、日本の政治家たちがベトナム側に改善を要求すべきところだ。しかし、出稼ぎ労働者の人数確保にしか関心はない。低賃金の外国人労働者を欲する業界との癒着もあってのことだ。
映画に登場する人々は、急増する在日ベトナム人の姿とも重なる。貧しさから抜け出せないベトナム人たちの「今」、人生の一発逆転を博打に賭ける人間の悲しい性が、リアルに描かれた作品だ。
(ジャーナリスト・出井康博)