「ガンダム」最新作は劇場公開と同時にBD販売 プロデューサーに聞くファンビジネスとマネタイズ

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 映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」が、ガンダムシリーズとしては異例の大ヒットを記録している。6月11日から全国215館で公開、動員81万人で興行収入は16.5億円。1979年にテレビで初放映された「機動戦士ガンダム」は、続編や外伝など多くの派生作品が生まれているいわずと知れた超人気アニメ。「閃光のハサウェイ」の主人公は「機動戦士ガンダム」の主要人物ブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアだ。

■劇場公開と同時にBDを売っても成り立つ

 劇場に足を運び不思議に思ったのが、「閃光のハサウェイ」のブルーレイディスク(BD)が同時発売されていたことである。劇場限定版が1万2000円、先行通常版は5000円だ。

 映画作品は劇場公開終了後にBDやDVDの販売とレンタル、さらに1年ぐらいしてテレビ放映となるのが一般的だ。劇場公開中にBDが手に入ってしまえば、リピーターを含め観客の足は遠のき、劇場収入も減少してしまうのではないか。

 この点から映画コンテンツのマネタイズ(収益化)をみていきたいが、サンライズと配給会社の松竹が映画上映と同時にBDを販売するのは初めてではない。2010年2月には「機動戦士ガンダムUC episode1 ユニコーンの日」を8館2週間限定で上映、劇場でBDを5000枚販売。2014年5月には「機動戦士ガンダムUC episode7 虹の彼方に」を35館4週間限定で上映して約2万枚を販売している。

 ただ、「ガンダム」を制作しているアニメーション制作会社「サンライズ」執行役員で「閃光のハサウェイ」のゼネラルプロデューサーを務めた小形尚弘氏は、これらはイベント上映という限定上映だから成り立ったと説明する。

BD購入者がリピート客に

「今回のような規模で映画上映をする場合は、上映終了から半年以上の期間を空けてパッケージ(BDやDVDなどの商品)を展開するのが従来のやり方です。リピート客が減る可能性もあった中で配給の松竹(松竹ODS事業室)さんがよく許してくれました。調整に苦労されたと思います。

 やはり劇場側の問題が一番大きかったのですが、BDはこれだけの高額商品ですし劇場物販なので、劇場にもちゃんと売り上げはあります。劇場からも評判はいいと松竹さんからは聞いています。

 一方でイベント上映を続けてわかったことは、BDを買うお客さんがリピートしているお客さんになっていることです。劇場で1万円もの現金を用意して買いに来てくれるお客さんは非常に熱いお客さんなので、劇場でBDを売っても興行収入減にはならないと思っていました。『閃光のハサウェイ』に関しては、家でBDを見てまた劇場に来るという相乗結果も生まれています。劇場で見ることと自宅で見ることとは、役割が全然違うとも思っています。リスクはありましたが、いろいろな意味でチャレンジさせていただきました」

 ある映画関係者も「興行収入が16億円を超えているのは大ヒット。しかもコロナ禍です。全国上映なら通常は300館以上で上映されるものですが、215館でこの数字というのも驚異的。館数から考えるとリピート客が多いということになるでは」と、小形氏の分析を裏付けるコメントをした。

「いまや作品は配信と海外上映で回収するというモデルになっていて、パッケージがそれほど動かない現実があります。『ユニコーン』のときはパッケージで(資金を)回収するということだったんですが、いまはどちらかといえば、BDはプラモデルのようなコレクターズアイテムにもなっているといいますか。劇場で体験したことをまた体験したいとか、記念に買うとかそういう意味合いのほうが多くなっています」(小形氏)

「ODS」が映画の新しい形に

 それでも「閃光のハサウェイ」のBDの劇場での販売枚数は、6月11日から7月5日の24日間で劇場限定版が5万2989枚、劇場先行通常版が3万7694枚、合計で9万683枚となっている。劇場限定版は売り切れる劇場もあったほどだ。逆風の中、こちらのファン・ビジネスも今回は成功したといえよう。

 松竹ODS事業室によれば、「閃光のハサウェイ」は単なる映画ではなくODSだと捉えているという。組織名にも冠せられたODSとは「アザー・デジタル・ソース」、非映画デジタルコンテンツのこと。一般的には、ライブビューイングなど映画以外のコンテンツを劇場で上映するという意味で使われている。ただ「閃光のハサウェイ」のように、料金設定やパッケージ展開やメディア展開をこれまでの決まりから外れた形で展開する映画もODSということになるという。これからの映画の新しい形といわれている。

劇場と配信

 コロナ禍の緊急事態宣言で多くの劇場が休業に追い込まれた。そのため、BDの劇場販売などよりも非劇場である動画配信が、映画制作会社と劇場との間では緊張の種だ。

 昨年は劇場が休業せざるを得なかったため、公開延期ではなく劇場公開を中止して動画配信に踏み切った作品もあった。しかし、コロナ対策が落ち着いてきた今年に入っても、劇場公開と同時に有料チャンネル動画で配信するケースも出てきている。そのため米国では、劇場公開のあてが外れた映画館チェーンからは長年のパートナーであったはずの映画制作会社に対して怨嗟の声も上がった。

「ガンダムの日本国内の展開は劇場を主体に」

 このように入念に準備されてきた「閃光のハサウェイ」だが、コロナには振り回されている。

「閃光のハサウェイ」は昨年7月に公開予定だったが、1年延期して今年6月の劇場公開を選んでいる。劇場にこだわったのはなぜか。

「劇場がどうなるか誰もわからない状況が続いています。6月4日公開を11日に変更しましたし、僕らは今も毎日ニュースとにらめっこです。本当は全世界で劇場公開したかったのですが、日本と中国以外ではNetflixで配信を始めました。コロナの状況が落ち着くまでいろいろなメディアを組み合わせてちゃんとビジネスにしていきたい。

 公開と配信を同時にするとか選択肢や可能性はいろいろあるので、今後、アイテム(作品)を持っているところが考えていくことになると思います。作品によって戦略も異なります。映画が向いているもの、配信が向いているものがあるからです。

 ただ「閃光のハサウェイ」の主軸は劇場です。劇場で見てほしかったからです。今までのガンダムとはまったく違う作り方をしましたから。ドルビーアトモスで音響をつくり、絵は相当追い込みましたし、映像的に新しいことができたのではないでしょうか。大画面で劇場とそこの音響でなければ体験できない価値はあると思っています。やはり基本的にガンダムの日本国内の展開に関しては劇場主体という気持ちが強いんです。そこに関してはあまりブレることはないかな」(小形氏)

「閃光のハサウェイ」は普段洋画を見ている層、特にクリストファー・ノーラン監督の映画を見ているような人が見ても満足できる映像に仕上げようと思っていたという小形氏。そしてそれはうまくいったそうだ。ノーラン作品でも最近の「インターステラー」(2014年)や「テネット」(2020年)などは壮大で複雑なSF映画。ガンダムの世界観にも通じるものがある。「閃光のハサウェイ」も、子ども向けのアニメ映画とは一線を画す内容だ。 

「ガンダムもグローバル展開が重要になる」

 これから45周年、50周年と節目を迎える「機動戦士ガンダム」。今後は米ハリウッドで実写化が企画されているという。

「アニメーションは日本が唯一ハリウッドに勝負できる技術。ガンダムもこれからグローバル展開が非常に重要になってくると考えています。巣ごもり需要でガンプラ(ガンダムのプラモデル)が売れているといっても、まだまだ世界ではニッチな存在ですから」(小形氏)

 1979年には子ども向けのアイテムだったアニメ。声優から次々にスターが生まれる時代にもなり、日本の有力産業としてますます伸びていくのだろう。

(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ) 

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