「腐れ縁でも別れると相当寂しいだろうな」社会に強い不満を持つ55歳男性の別れの予感【冷酷と激情のあいだ】
55歳、10年続いた恋人は“腐れ縁”
男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人差があります。ひとつの出来事への解釈や目的が、男性と女性では異なる場合もしばしば。男性と女性では、夫婦のあり方への認識が大きく異なる場合も少なくありません。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)な人間模様分析を得意とする並木まきが、そんな男女の“冷酷” と“激情”のあいだを垣間見るエピソードをお届けします。
【冷酷と激情のあいだ~男性編~】
法律婚を選択せず交際10年を迎えた杏里さん(43歳・仮名)は、一回り上の恋人・ハルトシさん(55歳・仮名)との将来に不安を抱いています。ところが、ハルトシさんは…。
「杏里とは、完全に腐れ縁!! 好きか嫌いかって聞かれたら、ちろん好きですけど。もはや家族って感じなので、女としては見ていないですね。
気づけばもう10年も付き合っていますからね〜。こんなに長続きするなんて、自分でも思っていませんでしたよ。ガハハ」
豪快な話し方が特徴的なハルトシさんは、手に職があるフリーランスとして国内外を問わず活動してきましたが、コロナ禍をきっかけに仕事をペースダウンさせました。
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60歳でのリタイアを意識
「俺ね体力もしんどいし、いつまでもバリバリ働きたくないんですよ!
でも今の仕事の内容は大好きなんで、趣味として一生続けていくと思いますけどね。“仕事”としては、60歳でキッパリ辞めたい。そうなると、俺の年齢だとタイムリミットまで、あと少ししかないんですよ。
ぼちぼちリタイアの準備をしようと思っているんですけど、今、社会がこんな感じでしょう?
なんだか落ち着かないし、不安も大きいし。政治も経済も信用できないから、自分の身は自分で守るしかないなって、ちょっと焦っています。
今でもハルトシさんは杏里さんとの法律婚は一切考えていないため、老後は一人で生きていくだろうと覚悟を固めています。ですが、その思いをまだ杏里さんに打ち明けてはいません。
世の中がなんだか変
「杏里には杏里の人生があるし、俺には俺の人生がありますからね。ここまで10年間はたまたま俺らの人生が交錯したって話。
これから先もずっと混じり合う確証はないですから!
だけどねえ…俺、思うんですよ。コロナ禍を経てから、なんか社会の雰囲気が変わってきてません?
これまでの日本の良さみたいなのが、急速に失われつつあるっていうか…。
腹立たしい出来事が増えているし、俺らが若かった時代よりも社会を舐めている若者が多すぎる。
自分さえ良ければいい! 的な考えの人が増えていて、俺は常にイライラしてますよ!」
社会への不満の大きさと比例するように、自分の将来への不安も強くなっていると話すハルトシさん。しかし改善策が思いつかず、鬱憤を抱え続けている現状が「しんどい」とも打ち明けます。
寂しいけれど自分のスタイルを変えたくない
「実は俺、ぼちぼち杏里とも終わるのかなあ…って気がしているんですよね。
俺ね、もうまったく性欲がないんですよ。だから究極的には、これから先はひとりでもなんとかやっていけるんじゃないかな。そりゃあパートナーが居てくれたほうが心強いですけど。
俺には経済的に杏里の面倒を見る余裕はないので、そうなるとどこかで区切りをつけないといけないじゃないですか。
以前は還暦くらいがそのタイミングかなあって考えていましたけど、最近は杏里との会話も噛み合わなくなっているし、ぼちぼち潮時なのかもしれない。
長く付き合ってきたので別れると、相当寂しいだろうな。
だけどお互いにヨボヨボになったときに『介護どうしよう?』ってなるのも嫌だからね。
今まで貫いてきた『それぞれが自分に対して責任を持つ』スタイルを、絶対に変えたくないんです」
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。
まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
(並木まき/ライター・エディター)