池上季実子さん「“米国のパスポート”があるから海外で仕事ができたら」

公開日: 更新日:

池上季実子さん(女優/62歳)

 8代目坂東三津五郎は祖父、9代目は叔父、10代目はいとこという歌舞伎の名門の一族にして、映画ドラマで活躍する女優の池上季実子さん。この夏は5日からスタートする横内正主演、演出のシェークスピア劇「リア王」「マクベス」に出演する。昨年はコロナ禍で舞台出演などが軒並み中止になったが、これからに懸ける思いを語ってもらった。

  ◇  ◇  ◇

 去年は舞台の仕事がコロナで全部中止になりました。料亭の女将を演じることになっていた「おりょう」、双子のおばあさん役の「八つ墓村」、現代劇もあって、それからこの「マクベス」「リア王」で5つ。何もなくなりました。

 今まではテレビ、映画が中心でしたけど、これからはもっといろいろな舞台に挑戦したいと思っていた矢先でした。ですから全部が中止になって本当に落ち込みました。と同時に、それまでもお芝居をやって、私がどれほど好きだったかということを思い知らされました。私にとって芝居は自分の存在を認めてもらえる場所です。それがなくなると、おもちゃを取り上げられた子供みたいに抜け殻になってしまう……。

 今回、「マクベス」と「リア王」の稽古が始まって、久々に友人と会ったら「季実ちゃん、芝居が好きなんだね、生き生きしてるね」といわれました。自分では「こんなにセリフがあるの!?」なんて言いながら、本当は楽しいんですよね。舞台って何度も何度も稽古していく中で「このセリフはこういう言い方じゃない」「このシーンではこんな意味じゃない」とどんどん深くなる。稽古をやればやるほど深さ、舞台の面白さ、そして怖さがわかってくる。難しいし、自分の腕のなさも思い知らされますが、その魔力のようなものに引きつけられます。

 今回はしかも、シェークスピア劇にダブル出演です。なので、「一つでも大変なのに、リア王の長女ゴネリルとマクベス夫人との両方をよく引き受けたね」って驚かれました。その時は「怖いもの知らずだから」なんて言いましたけど、昼に「リア王」をやって、夜「マクベス」となるとさすがに切り替えが大変。凄まじいスケジュールで稽古しています。

 再来年でデビューして50年になります。15歳でドラマ「愛と誠」のヒロインを演じました。この時は父に大反対されました。「おまえは嫁にもいかないで一生この仕事をやり続けるのか」と責められて。サラリーマンの父は厳しい人で、それまでなら反撃するなんて考えられませんでした。

 でも、あの時の私は違いました。「私はこれがやりたい!」と初めて反抗しました。さすがに父がびっくりした顔していたのを今でも覚えています。後にも先にも父に反抗したのはあの時だけです。でも、「この仕事がこんなに好きだったんだ」と自分でわかったんです。「ずっとこの仕事をやっていくんだ」ってね。それからはひたすら、まっしぐらでやってきました。

この年になったら何でもやります

 これまで相棒のようなマネジャーがいて、その後、大手の事務所に入って敷かれたレールの上で目標に向かってやってきました。でも、そこも辞めてこれからは自分なりにいろんな機会をいただいて、いろんなものに挑戦して、もっと自分がやれることをやっていきたいと思っています。

 ただ、お仕事をくださるみなさんが気を使ってくださるのはありがたいのですが、私のイメージがこうと思っている方が多いみたいで、「この役はやらないだろ」と思われちゃうみたいです(笑い)。

 今回は2.5次元俳優といわれている若くて才能のある俳優もたくさん出演しています。私は還暦を過ぎましたが、ジェネレーションギャップだなんて言っていられません。2.5次元の若い人を見ていたら「あら、こんな芝居もあるのね」って思ったり。横内さんや私のオーソドックスな芝居とうまくミックスできれば面白いと思います。

 これからは海外の仕事もぜひ挑戦してみたいですね。私はニューヨークで生まれたので、アメリカ国籍を持っています。せっかくアメリカのパスポートがあるわけだから海外で仕事ができれば最高じゃないですか。

 以前、海外から映画のオファーをいただいたこともあります。ちょうどその時期は子供の進学受験と重なってしまい、断念しました。ニューヨークから2人のプロデューサーが4回も日本にいらして、「子供の受験でこの映画のオファーを断るのはナンセンスだ」と説得されました。でも、もし仕事を受けたことで子供が受験に失敗したら子供には申し訳ないし、私は一生後悔することになる。そう思うとオファーを受けるわけにはいきませんでした。

 そんなオファーがあったら、今でもやりたいですね。ただ今度は母の介護が始まって日本を離れることができません。私はその時々で試されているのかなと思います。

 去年は初めて朗読の会をやりました。コロナ禍という境遇をチャンスに変えたからこそやることができました。今は個人事務所なので自分で仕事を決めています。この年になったら何でもできるし、やってみたい。長い女優人生を楽しくやっていけたらいいな。

「リア王」「マクベス」ダブル上演。横内正主演、共演は2.5次元俳優として注目の若手、松村龍之介ら。8月5~14日の全17ステージ(10日間のうち7日間は「リア王」「マクベス」との昼夜2公演)、場所は新橋・ニッショーホール。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇