加藤登紀子さん 房総台風で被害を受けた鴨川の古民家を再生したい

公開日: 更新日:

加藤登紀子さん(歌手・77歳)

「知床旅情」や「百万本のバラ」などで国民的に親しまれている歌手、加藤登紀子さん(77)。新曲「この手に抱きしめたい」ほか、これまでの集大成の最新ベストアルバム「花物語」をリリースした。エネルギッシュなお登紀さんが今、取り組んでいることは……。

  ◇  ◇  ◇

 今回のベスト盤「花物語」を出すきっかけになったのは、親鸞聖人生誕850年を記念した愛唱歌の制作です。西本願寺が歌詞を公募したら1262通もの応募が来て、みなさん、言葉や歌に対する思いが強いんだなって感動しました。

 応募作品の中から選んだのは3曲ですが、どの歌にも花が歌われていました。それで気がついたのは私が歌ってきた歌には必ずといっていいほど「花」が入っていること。野に咲く花です。人の命は短くてはかなく、愚かで、そんな悲しい気持ちになる時、あるいは人間の欲深さや不純さとかをクリーンアップしたい、もっとピュアな命でありたいって願う時に、人は花を思うんでしょうね。

 悲劇が起こる中で産み落とされた歌に「花」をテーマにしたものが多いんです。ベスト盤に収録した、なかにし礼さん作詞の「わが人生に悔いなし」も最後に桜の花が出てきますし、「百万本のバラや」や「琵琶湖周航の歌」ももちろんそうです。これらは別にヒットを狙って歌った曲ではありません(笑い)。

 ♪われは湖の子~で始まる「琵琶湖周航の歌」の詞は日本が世界に開かれた国に成長していた大正時代に、夢をいっぱい抱いていた学生が書いたものです。しかし、その後、日本が暗い時代に突入、学生はなぜか26歳で自殺してしまいました。この歌は自分が生きた証しを伝言のように残した歌です。私のレパートリーはこんなふうに命の伝言みたいな歌が多いんです。

■命のメッセージを受け取って次世代に

 ベスト盤の制作は自分を確認する作業でもありました。私たちの時代はつねにコンテンポラリーなもの、新しいものを求めていました。でも、やっぱり私は遠い時代の人たちの命のメッセージを受け取って、それを次の世代に渡していく役割を果たす歌手だったのかなと思いました。だれが作ったのかわからないような歌でも、その中に残っていく力がある歌は今後も残る可能性があるわけでしょ? 私がたまたまそういう歌を歌わせてもらってきたってこともありますけど。

「知床旅情」もそうですよね。あの極寒の地で森繁久弥さんが自然から強いメッセージを受け取ったからできた曲です。すぐヒットしたりしないけど、野に咲く花のように大地に根付いた歌だったんだなって思います。

屋根が吹き飛ばされブルーシート王国

 というわけで、ここからが私のやりたいことです。電車に乗っているとパッと風景が変わりますよね。変わった風景が見えたら降りて、行った先で何か問題があれば飛び込んでいき、やれる限りのことをやるという生き方をしてきました。これからは、日本を素晴らしい国にして死にたい! ですね(笑い)。

 いや、本当に日本は世界のオアシスみたいな国だと思っています。世界中、いろいろ見てきたけれど、こんなに素晴らしい国はない。日本の国土の70%以上は森です。世界中の人がびっくりするほどの緑の財産があります。だけど、残念ながら今は田舎や森が荒れてしまっています。

 19年に房総半島は大きな台風に襲われ、大変な被害を受けました。それが見るも無残な状況のまま放置されています。

 房総には夫(藤本敏夫氏、02年に他界)がつくった「鴨川自然王国」があります。今も農業塾の運営や有機無農薬栽培を続けています。周囲には200年ほどの歴史を持つ古民家がいくつもありますが、台風でわらぶき屋根が吹き飛ばされ、トタン屋根は全部、剥がされちゃって、「ブルーシート王国」になっている。緑が滴るようなところなのに、倒木が多く、周辺の集落は朽ち果てていく家がいっぱい。日本の素晴らしさが朽ち果てていくのを見るのはつらい。宝の持ち腐れです。

 なので、鴨川の地域の人たち、鴨川に住んでいる娘(Yaeさん)の世代の若い人たちと一緒にみんなでお金を出し合い、古民家を再生しようとして考えています。若い人たちが古民家を改装して、カフェをつくり、宿泊もできるようにして。奥には私が気に入っている蔵があって、改装してギャラリーにしようと思っています。

 自分の書や陶芸品が倉庫に眠っているので、それらを発掘して展示する予定です。今は残念なことに、今年お金をかけたら来年、収益が見込めるという短期のプランじゃないと物事が進まなくなっています。何でも目先のことばかり。でも、若い人たちがどんどん集まってきていますから、20年ぐらいかけてゆっくりと時間をかけ、「古民家プロジェクト」を進めていきたい。やれることはいっぱいあります。

 鴨川で過ごす時間が増え、若い人たちとの対話が膨大に増えました。間違いなく、新しい世界が生まれています。若い人たちを「頑張れ!」って支えたいです。

■最新ベストアルバム「花物語」リリース 新曲「この手に抱きしめたい」ほか、「百万本のバラ」「さくらんぼの実る頃」など花にまつわる全50曲収録。

「加藤登紀子 ほろ酔いコンサート2021」 11月23日に梅田芸術劇場メインホール、12月10日関内ホール、同19日京都劇場、同20日御園座、同25、26日ヒューリックホール東京(問い合わせ=トキコ・プランニング ℡03・3352・3875)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動