<52>聖路加病院の名物院長からドン・ファンに届いていたお礼状
「えーと、どこだっけかな?」
社長室から一枚のハガキを持ってきて、私に差し出した。差出人には「日野原」とあった。「いつもおいしいモノを送って下さりありがとうございます」という自筆のお礼状だ。達筆とまでは言えないが丁寧に書かれていた。
「先生は講演会をよくやってらして、私は出席していたんやで。だから、お礼に梅干しとか紀州の海産物を送っていたんですよ」
「へえ? 初めて聞きました。このハガキって家宝になるじゃないですか」
私は驚きの声を上げた。
「そうかな~。他にもお礼状があったと思うけど、どっかに行ってしまった」
残念そうな表情を見せることもなかった。彼の価値観はよく分からない。この頃には緑内障手術を担当した女医さんにもたくさんのお土産を送っていて、そのお礼状も見せてくれたが、それらのハガキはもう存在しない。社長の死後、要らないモノとして捨てられたのだろう。 =つづく