<77>早貴被告はアプリコの財産を手に入れられる立場になった
「遺産が欲しかったら、ドン・ファンの霊を慰めなければならないんだよ」
あきれながらも私は早貴被告にそのように伝えると彼女はコックリとうなずいた。といっても不満そうな顔だったから到底納得していないことは分かっていた。
その場にいた人間で早貴被告と利害関係にないのは私と大下さんだけであり、彼女は自分の優位性に気付いていくことになる。それはつまりアプリコの社主になることであり、「アプリコ」の財産を手に入れられる立場に就くことを知り始めたからだ。
この時、野崎さん個人の資産は法律に従って凍結されて動かすことはできなかったが、会社の金約2億円は運営費として動かすことができたので、それが草刈り場になった。
「アプリコ」の従業員のマコやんや佐山さんは面と向かって早貴被告に意見することはなかった。将来社長となり、自分たちを差配する可能性がある彼女に逆らいたくなかったのだと「大人の対応」を学んだような気がした。ただマコやんは闇雲に従順な性格ではなく曲がったことが嫌いで、ドン・ファンが理不尽なことを言った場合には喧嘩も辞さない覚悟もあったので、私は彼のことを信用していた。