五木ひろしの光と影<16>「よこはま・たそがれ」誕生秘話…演歌ではなくアメリカンポップス
山口洋子は「全日本歌謡選手権」で6週目まで勝ち抜いた無名の下積み歌手、三谷謙の再デビューをプロデュースしようと、平尾昌晃に8編の詞を渡した。平尾によると、いずれも凡庸なもので「これじゃあ、ちょっと難しいかな」と感じた。しかしその中に「あの人は行ってしまった」という不思議なタイトルの詞があった。不思議なのはタイトルだけではない。詞も不思議なものだった。名詞が羅列しているだけなのだ。
「これだけは面白そうだな」と思った平尾はアコースティックギターを手に取った。
筆者は生前の平尾昌晃にその作曲法を聞いている。「シセン」(詞が先にある場合)は適当にそのフレーズを口ずさみながら「フンフンフンフン」と、なんとなく曲を付けていく。
詞がいいとすぐに曲が乗る。詞がよくないとなかなか曲は乗らない。「詞がイマイチ」とはそういう意味だ。
「キョクセン」(曲を先に作る場合)のときは、また少し違う。自分で世界観を思い描きながら曲を作るという。ともかく、そうやって「霧の摩周湖」(布施明)も「瀬戸の花嫁」(小柳ルミ子)も「ぼくの先生はフィーバー」(原田潤)も「カリフォルニア・コネクション」(水谷豊)も生み出してきたのである。この「あの人は行ってしまった」という不思議なタイトルの作品は、独特な詞の運びだけに曲に乗せやすく、1時間足らずで曲は出来上がった。