俳優・映画監督 崔哲浩さんが語る極貧生活「子供時代は風呂なし8坪の長屋で」
崔哲浩さん(42歳/俳優・映画監督)
劇団を主宰する一方で映画「ホタル」や「チルソクの夏」でバイプレーヤーとして活動してきた崔哲浩さんが、今月11日公開の映画「北風アウトサイダー」で監督デビューする。脚本・主演も務めた自伝的作品で、大阪市生野区の在日朝鮮人街に生まれ育った人たちの家族愛や偏見、葛藤を描いた群像劇。そんな崔監督が幼い頃の貧乏時代を語ってくれた。
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「北風アウトサイダー」は自伝的作品ですが、僕の家族や幼少期をそのまま投影しているわけではなく、生野区で生まれ育った当時の実体験や見聞きしたセリフやエピソードをちりばめて作っています。
なので、映画では男3人、女1人の4人きょうだいをメインに描いていますが、実際の僕は姉2人の3人姉弟。映画では父親はおらず、母親は食堂を経営している設定ですが、実際は違います。オヤジは在日2世で、かつて総連(在日本朝鮮人総連合会)の幹部として、オカンは大阪女性同盟で働いていました。両親とも毎晩9、10時まで帰ってきませんでしたが、オヤジは月5万円、オカンは3万円ぐらいしかいただいていなかったようです。その上、朝鮮学校の学費は日本の公立学校と違って高いし、オカンは一時ノイローゼを発症するしで、家族5人の暮らしは極貧でした。
■ネズミがペット、名前は「チュウ太」
住んでいたのは8坪の長屋。風呂はなく、何日かに1回、銭湯に通っていました。たんすや食卓とかの家具は一切なく、ネズミも隠れる場所がないくらい。壁の穴から入ってきたネズミ3匹を、ペットと思って手のひらにのせて、ポケットティッシュでくるんであげたりして、かわいがっていました。「チュウ太」と名前も付けて(笑い)。親がいつも家にいないから寂しかったんでしょうね。金持ちの親戚が遊びにきた時、すごい目で見るから「なんで?」と不思議でした。
貧乏で一番つらかったのは、やはり食べるものがなかったこと。
帰宅の遅い両親に代わって5歳上の姉と1歳上の姉が夕食を用意してくれたのですが、家には普段お米ぐらいしかないので、ご飯を炊いて、近所の人から味付けのりをもらって、それを丸や三角形に切っておにぎりにして食べさせてくれました。おかずはほぼなくてワカメのみそ汁があったら「ごちそうだ!」と思っていました。サッポロ一番みそラーメン1袋を3人で分けたりも。お腹いっぱい食べた記憶はありません。
朝鮮学校は給食がないので各自お弁当持参。ウチは弁当を持たせてもらえず、代わりに「買って食べるように」と1日100~150円を渡されていました。それじゃ大したものは買えないし、弁当がないのをクラスメートに知られるのは恥ずかしい。だから、昼飯は1日おきに食べていました。食べない日は校庭で鉄棒やサッカーをして空腹を紛らわせ、次の日に2日分でおにぎりとかパンを買うんです。
「なんでウチだけこんなに貧乏なんやろ」と、いつも思っていました。食べるものがない、お金もないとなったら、子供は悪さするしかない。よくないことですけど。近所の駄菓子屋やスーパーとかね。食べるものがないと怖いものがなくなるんですよ。
お巡りさんに捕まったことも何度もあります。でも、僕はボロい服1着しか持っていなかったし、ガリガリに痩せているので、お巡りさんも同情してくれるんです。それがわかっているので、嘘泣きの涙を流して……。この頃からお芝居をしていました。
高校卒業まで100万円近く貯めたけれど…
僕の名前の哲浩という名前は朝鮮語読みではチョロ。昔「チョロQ」という人気のミニカーがあったので、「チョロQ」と呼ばれてバカにされました。やり返して、どつき合いのケンカとかいろいろありました。でも、それも中2でキッパリ卒業して更生しました。小3の時、親戚がくれたテレビで神山征二郎監督の映画「遠き落日」とかを見て救われるうち、俳優になるという夢ができたからです。
高校を卒業したら上京しようと決心し、中2の時、年齢をサバ読みして難波のホストクラブで呼び込みを始め、中3から新聞配達のアルバイトもやりました。毎朝3時起床で200軒に配り、下校後は6時から10時まで中華料理店で働いていました。俳優になるという夢があるから、全然苦じゃありませんでしたね。
卒業までに100万円近く貯めたのに、いざ東京へ行こうとしたら、両親に「家賃を2年分滞納してる」と明かされ、貯めたお金を渡しました。おかげで、無一文で東京へ。腹が立つというより悲しかったですね。それでも親だから、上京後も月10万円を20年間仕送りし、東京へ呼び寄せて亡くなるまで介護しました。
崔洋一監督と同じ名字ですが、親戚ではありません。僕にとっては大先輩です。崔監督もわかってくれているので、聞かれたら「息子です」と言っています(笑い)。
2月11日公開の「北風アウトサイダー」は脚本・主演を務めた監督デビュー作。在日朝鮮人の家族と周りの人々を描いた群像劇。シネマート新宿ほか全国順次公開される。
「ラストの壮絶な乱闘シーンや、結婚式のシーンなど、見ていて観客も一緒にそこにいるような感覚に陥るようなリアリティーを追求し、大迫力のヒューマンドラマができました。映画館で体感してほしいです」
▽崔哲浩(さい・てつひろ)1979年3月、大阪市生野区生まれ。府立今宮高校卒業後、上京し99年、三池崇史監督映画「日本黒社会 LEY LINES」で俳優デビュー。2007年、映画監督・入江悠と「劇団 野良犬弾」設立、俳優として活躍中。