奥田瑛二さん「天職は映画監督、適職が俳優」「懸案の2作品を撮りたい」
俳優、監督、画家として幅広く活躍している奥田瑛二さん。9月にバラエティー番組「プレバト!!」で人気の俳人、夏井いつきさんとの共著「よもだ俳人子規の艶」(朝日新書)を上梓し、さらなる多才ぶりが話題である。これからやりたいことはたくさんある。
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――9月に終了した朝ドラ「らんまん」に出演し、元火消しで石版印刷所の工場主を演じて注目された。
「らんまん」は、熊井啓監督や神代辰巳監督の映画に出た時以来の時間をかけて役作りをした作品だったかも知れません。他のドラマでものめり込んだのはありますが、朝ドラというカテゴリーを考えながら思う存分、人物を表現し発揮できたと思います。
元火消しで石版印刷所の主という設定です。2つの役柄を作る手間、体に染み込ませる時間が必要でした。最初は苦しかったですね。
石版印刷は幸いにも僕は絵を描くし、フランスで石版印刷の経験もしていた。絵を描く時は今もドラマの中と同じ細い筆を使っています。ですから、主役の神木隆之介君が描いている時も僕は心配する目線ではなく、当たり前のように見ることができた。石版印刷に対する情熱や目線、志は自分の中にもあったし、勉強しなくてもよかったのは大きかったですね。
火消しは江戸っ子で男気を出すということ。その中に優しさもあり、かみさんへの愛情、夫婦愛もある。そういう役作りが楽しく僕にとっては冒険でした。
そして火消しをやっていたのに、明治維新になって印刷所の主になるという、変わっていく感覚を体の中に覚えさせました。もちろん監督はいましたが、話し合って好きにやらせていただけてああいうキャラクターを作ることができた。うれしかったですね。
役者としては演じたことのない役がなくなってくるほど、いろいろやってきました。やってみたいのは宮本武蔵が1ミリも動けず刀も抜けなかった相手、柳生十兵衛の祖父にあたる石舟斎ですね。例えていうなら、三船敏郎さんと笠智衆さんが溶けたみたいな人です。
笠さんがグレーの無地の浴衣を着て青いアジサイを一輪、右手に持って垂らしている。たったそれだけの写真ですが、それがすごかった。その笠さんの姿と「椿三十郎」の三船さんが合体する。想像もつきませんね。それに志村喬さんのどっしりしたところも重なったりしたら、まさにとんでもなく美しい怪物だと思います。そういう手に入れられないもの、志とか夢をはるかに超えた向こうにあるもの、それが僕の理想です。そういう俳優がいたら監督してみたくなるし、自分でも演じることができたら……と思ってしまいます。