「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」不朽の名作を通して訴えた非戦の願い
開演前のBGMは機動隊と衝突する学生たちのデモのシュプレヒコールにかぶさるようにして、ロックバンド「PYG」の反戦歌「花・太陽・雨」(1971年)が流れる。これは沢田研二がザ・タイガース解散後に萩原健一らと結成したバンド。さらに舞台が始まると「頭脳警察」の「さようなら世界夫人よ」(72年)の歌声。今年7月に急逝したPANTAがヘルマン・ヘッセの詩に曲をつけたもので、ヘッセがナチス・ドイツに蹂躙(じゅうりん)される母国を世界夫人と称して鎮魂し、惜別した歌なのだ。
「家」の呪縛から逃れようとするトムの姿は故郷や母の桎梏(しっこく)から逃れて上京する渡辺に重なる。その母親役をユーモアを交えながら自ら演じた。歌舞伎役者らしい口跡の良さが圧倒的な尾上は同性愛者であった原作者に対するリスペクトとして、ジムに対するトムの思慕をにじませた。ローラの繊細な魂に寄り添った吉岡、一家に波紋を起こす和田の清新な演技も特筆もの。
「消えなさいローラ」(作=別役実)は「ガラスの──」の後日談。家を去ったトムを待ち続ける母とローラは待つことに疲れ、いつしか互いに同化していく。死んでいるのは母なのか、それともローラなのか。
2つの物語の底流にあるのは、時代の閉塞感と喪失感。現在進行中の「新しい戦前」に抗し「夢を見ることを忘れないでほしい」と訴える渡辺えりの祈りと熱情が伝わってきた。21日まで新宿・紀伊國屋ホール。
★★★★