医師国家試験に初めて合格した女性医師は夫に淋病をうつされ決心
それだけ梅毒患者が多かったことを考えれば、他の性感染症の患者も多かったはずです。当然、夫から性感染症をうつされた女性も少なくなかったでしょう。じつは1885年に日本で最初に医術開業試験(いまの医師国家試験)に合格した女性もそのひとりです。現在の埼玉県熊谷市出身の荻野吟子氏は、18歳で結婚しますが、3年後に離婚。その理由は淋病を夫からうつされたからだと言われています。当時の淋病は一生治らない病気とされ、子供が生まれないと言われました。高熱に耐え、腹痛に悩まされた末に離婚を決意したそうです。
幸い、その後治療に成功したものの、診察台に乗って複数の屈強な男性医師に囲まれて行われる診察を経験し、「私のような女性を救ってやろうと決心した」と伝えられています。その時の恥辱が、女性が医師になるという夢すら抱けなかった時代の壁を破る原動力になったのだろうと思います。男性は、女性にそうした大きなエネルギーがあることを知っておくべきでしょう。
ちなみに、荻野吟子医師は埼玉県の三偉人のひとりです。深谷市出身で現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公である渋沢栄一、本庄市出身で江戸時代の全盲の国学者にしてあのヘレンケラーから「人生の目標」と称えられたという塙保己一と共に顕彰されています。なお、荻野吟子医師が男尊女卑的な試験制度を変えるにあたっては、塙保己一が編纂した平安時代の律令の解説書「令義解(りょうのぎげ)」が大いに役立ったとされています。そこに女医の規程があり、それが荻野吟子医師の医師国家試験受験の突破口になったのです。