"孫子の兵法"から読み解く 「戦わずして勝つ」子育て論
子どもに「なんでそんなことするの」は否定や侮辱と同じ
■子どもの失敗に対する謀攻
ここで、日常でよく見られる次の光景について、これは謀攻といえるか考えてみましょう。
【例】お母さんは、お手伝いをしたがる子どもにテーブル拭きをさせました。子どもがテーブルを拭こうとしたとき、ジュースの入ったコップに手が当たり、コップは落ちて割れてしまいました。お母さんはこう言いました。
「なんでこぼすのー! 気をつけなきゃダメでしょ。しっかりとやってよ。ママの仕事が増えちゃったじゃないの、こぼすならはじめからやらないでちょうだい。カーペットにシミがついちゃったじゃない。見てないからこんなことになるのよ! コップも割っちゃって。バカ! ほんとに困った子ね。泣くんじゃないの。泣けばいいってもんじゃない! あなたが悪いんじゃないの! 自分のせいでしょ。ミッフィーちゃんのコップ割ったの自分じゃない。泣いたって許さないからね。うるさいって泣くなこの泣き虫! もう何にもしなくていいから、あっち行ってなさい!」
そうですね。おわかりのとおり、子どものひとつのミスを徹底的に追撃し、せっかくのお手伝いの機会を奪い取っていますので、謀攻とはいえません。このように、子どもは「なんでそんなことするの」と言われると、批判されたと感じます。その種の言葉は、「あなたはダメな子ね」「あなたはバカね」と、子どもを否定、侮辱しているのと同じことです。子どもにとってはミサイルをぶち込まれたのと同じくらいの衝撃で、それ以上攻撃を受けないよう本能的に自分の存在を消して、しゅんとして小さくなっているしかありません。子どもにしてみれば、お母さんのお手伝いをしてみたかっただけなのです。コップが近くにあったからこんなことが起きてしまったわけで、ジュースをこぼすつもりなど、はなからありませんでした。
■子どもの気持ちに目を向ける
このケースにおいて、お母さんはどうすべきだったのか──。まずは「お手伝いをしてお母さんの手助けをしたい」という子どもの気持ちを受け止めてあげること。コップの水をこぼされても、イラっとする気持ちを一瞬抑え、こう言えば良かったのです。
「お手伝いありがとう。あ、ジュースこぼしちゃったのね。じゃあ、この雑巾でふいといてね」
子どもはバツが悪いかもしれませんが、言われたようにこぼしたジュースを雑巾でふいてくれたことでしょう。そうしたら、すかさずこう言葉をかけてみればいいのです。
「ありがとう。テーブルも床も、お掃除全部お手伝いしてくれてママ助かっちゃったわ」
子どものミスを指摘するばかりで、伸びていくせっかくの育ちの場面をみすみす台なしにしてしまうのではなく、子どもの気持ちをしっかりと受け止め、子どもの自立につなげるようにしてみてほしいのです。
■結果だけを重視しない
大切なのが、失敗してもいい、間違ってもいい、違っていていい、ということです。これはありのままを受け止めるということであり、子どもが生きている姿、生きている瞬間、それこそが「ありのままの姿」です。そこに目を向け、言葉をかけてほしいのです。そのまま受け止める、そして、目に見えるものだけで評価しない、自分の尺度で良し悪しを決めないということです。
親は、「子どものすること=行動の結果」が気になって仕方がありません。なぜなら、結果は目につきやすいものだからです。しかし目につく行動にではなく、気持ちに目を向け、それを肯定し、受け止めてあげたいものです。「そうなんだ、そうしたかったんだ」「大丈夫だよ」「ママ、わかってるわよ」──こうした肯定的なニュアンスの言葉で、子どものことを受け入れてあげることが大切です。