本屋・生活綴方(妙蓮寺)圧倒的特徴は店が持つレーベルのジンや冊子
八百屋やお菓子屋が並ぶ生活感いっぱいの道沿いに「小学館の学習雑誌」と書かれたレトロな看板。「元々は児童書やコミックを置いていて。でも、物置になっていた時代が長かったんですよ」と、店長の鈴木雅代さんがおっしゃる。斜め向かいにある創業70余年の「石堂書店」が、いわば“親元”で、2020年2月に始動したとのこと。
入ってすぐに、この欄で取材したばかりのエトセトラブックスの「小山さんノート」、そぞろ書房(点滅社)の「鬱の本」が目に入るわ、夏葉社・島田潤一郎さんの「長い読書」も積まれているわ。シンパシーを感じつつ、店内を回る。人文書がずらり。民俗学的な棚では「観光地ぶらり」と「諏訪式。」「サーカスの子」の、しばし立ち読み読者となった。
レトロな看板が迎える創業70年余の石堂書店の姉妹店
店名は、戦前に始まり戦後、無着成恭らが指導した民間教育運動から?
「はい、なぞってますね」と鈴木さんが指す方向に、この店の圧倒的特徴の棚があった。文庫本大の冊子やジンが30冊以上並んでいる。価格は700円程度。手に取ろう、と思ったタイトルを列挙すると、「ふつうの書店員」「バイト」「製本と自由」「はんこ作家の岩手生活」。
店が持つ「生活綴方出版部」という名のレーベルから出ているそう。この出版部は出版社「三輪舎」代表の中岡祐介さんが担当している。と聞いたところへ、その中岡さんが偶然現れる。ラッキー。
「こちらから『書いてほしい』と思う人にオファーするんです。有名無名を問わず、店に来るとかつながりのある人に。原稿が届いたら編集し、ウチにあるリソグラフ(デジタル印刷機)で初版300部を印刷します」と中岡さん。
文学フリマに持って行くと飛ぶように売れる。他店も仕入れてくれる。もちろん、店でも動くそうだ。鈴木さんは「掛け率7割なので、他の本より、相当いいんですよ」と。
「書くことは自分を顧みる行為。紙の本は、ネットと違ってバズらない。読みたい読者と幸せな出会いをする」との中岡さんの言葉にうなずかずにはいられない。
◆横浜市港北区菊名1-7-8/東急東横線妙蓮寺駅から徒歩2分/月・金・土・日曜の12~19時、火~木曜休み
ウチらしい本
「私の生活改善運動」安達茉莉子著
「生活綴方出版部発行の3冊のジン『THIS IS MY LIFE』に書き下ろしを加えて、一冊になった本。“自分を機嫌よくする暮らしは何か”に重きを置いて、生活を顧みる。すると、あれ? これ、好きじゃないのに何で家にあるんだろう? と思うものがあったりする。他人の基準じゃなくて、自分はどうなの、と。著者があちこちを少しずつ変えてきたことを丁寧につづったエッセーです」
(三輪舎 1980円)