「隠れの子」 小路幸也著
小路幸也が時代小説を書いた?しかも、「東京バンドワゴン零」という副題が付いている? なんだこれは? 書店でこの文庫本を思わず手に取った方も多いのではないか。
「東京バンドワゴン」といえば、小路幸也の代表作といっていい家族小説で、もちろん現代を舞台にしている。それが江戸時代から始まっている、というのか。
それはおいおい紹介するにして、これはまず、特殊な能力を持つ人間たちの物語である。それを「隠れ」と言うが、さまざまな「隠れ」がある。たとえば、本書の主人公たる北町奉行所定廻り同心、堀田州次郎の持つ力は、類いまれな嗅覚だ。その部屋に残る匂いの片鱗を嗅ぐだけで、そこに誰がいたかを当ててしまうなど、尋常ならざる「嗅ぐ力」を持っている。
また、大きな石を持ち上げる力を持っている者もいれば、心臓掴みの力を持っている者もいる。これは外から心臓を掴むことで死にいたらしめるということだ。ただし、離れた地点ではできず、その力を使うには限りなく接近しなければならない。堀田州次郎とコンビを組んで謎解きに取り組む少女るうの力は、それらの力を消す力だ。
この2人がコンビを組んで、州次郎の養父を殺した者を探索するのが本書のメインストーリーだが、名字からわかるように、この州次郎が「東京バンドワゴン」の遠い先祖というわけだろう。物語が直接つながっているわけではないので、安心して手に取られたい。
(集英社 748円)