「MR」久坂部羊著
MRとは、メディカル・リプレゼンタティブの略で、つまりは「医薬情報担当者」。ひらたく言えば、製薬会社の営業である。処方箋を出す医者にアプローチして、自社の薬を売るのが彼らの仕事で、厚生労働省が認可する団体の「MR認定試験」に合格すると、資格を得ることができる。
本書は、製薬業界の最前線で働くそのMRたちの物語だ。医師への過剰な接待攻勢が問題になって、このMR制度がつくられたようだが、では接待がまったくなくなったのかというと、そうでもない。あまりにも過剰な接待はなくなったようだが、形を変えて残ってもいるようだ。
本書で描かれるのは、まずさまざまな医者の生態である。さらに、明暗を分けるMRたちの生活も描かれていく。連作のように描かれるそれらのドラマだけでも実は面白い。しかしそこまではプロローグといってよく、真のドラマは、ライバル企業のMRが登場してから始まっていく。虚々実々の争いが克明に描かれていくのだ。面白いのは、ライバル企業との対決に勝っても物語が終わらないことで、次に待っているのは、内部の敵なのである。自分の利益しか考えない連中との対決がまだ待っているのだ。その戦いが痛快である。
人物造形がやや類型的であることを指摘するむきがあるかもしれないが、そういうことを気にしていたらこの手の小説は読めない。痛快無比の通俗小説として楽しまれたい。
(幻冬舎 2200円)