「天使と嘘」マイケル・ロボサム著 越前敏弥訳
すごいシリーズが始まった。翻訳ミステリーのファンに、絶対のおすすめだ。
主人公は、臨床心理士のサイラス・ヘイヴン。彼が児童養護施設で、ひとりの少女と出会うところから本書が始まっていく。その少女の仮の名前はイーヴィ・コーマック。なぜ仮の名前なのかというと、身元不明だからだ。6年前に男の腐乱死体が発見された民家の隠し部屋にいるところを警察が救出。11、12歳と推定されたが、体重はその半分の年齢の子供よりも少ない。髪は伸び放題で、目つきは鋭く、野生の動物のようだった。その後は児童養護施設に収容されるも、周囲と馴染まず、問題を起こしまくる。そのイーヴィをサイラス・ヘイヴンが引き取って、一緒に暮らすのが物語の真の始まりだ。イーヴィ・コーマックはヘイヴンに気を許さず、ずっと反抗姿勢のままだから、ヘイヴンも大変である。
今回はまだ本格的なコンビ捜査が始まっていないが(現場に同行するシーンは出てくるが)、他人の嘘を見抜くという特殊能力で、この少女がヘイヴンの捜査を助けていくシリーズになるものと予想される。このヘイヴンの個性が他を圧している。
まだ第1巻なので、語られていないことが多い。たとえば、サイラス・ヘイヴンが幼いころ、両親と双子の妹を惨殺した兄は、いまも刑務所にいるが、いずれは面会することになるだろう。そういう不穏な空気をはらんだまま、いまシリーズが幕を開けたのである。
(早川書房 1210円)