著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「自由研究には向かない殺人」ホリー・ジャクソン著 服部京子訳

公開日: 更新日:

 主人公ピッパの住んでいる町で、17歳の少女アンディが行方不明になった。彼女と交際していたサル・シンがどうやら何かしたらしい。というのは、警察の事情聴取を受けたあと、サル・シンが自殺してしまうからだ。

 それが5年前のこと。高校に通うピッパは、その5年前の事件を学校の自由研究として調べようと決意。彼女には、サル・シンが犯人だとは思えないのだ。そこで当時の関係者に話を聞いてまわるのである。協力するのは、サル・シンの弟ラヴィ・シン。「自由研究には向かない殺人」はそういう長編である。

 昔の事件を素人が調べなおすというミステリーは数多いが、それらの作品と本書が若干ことなるのは、こちらがカーネギー賞の候補作に選ばれたことからわかるように、本書が同時に児童文学でもあることだ。正確に言うならば、ヤングアダルトだ。

 妙な言い方になるが、だから前向きだ。希望がある。関係者に話を聞いてまわると、実にさまざまなことが明らかになり、人間の醜い欲望や嫉妬などが表面にあぶりだされるが、それでも希望を捨てずに進んでいくピッパに、気がつくと声援を送っているのも、ヤングアダルトの効用といっていい。

 終わり間近、脅迫者の言う通りにしたのに相手が約束を守らず、ピッパが思わず、「こんなのフェアじゃない」と言うシーンがあるが、その彼女の怒りこそ、正義を信じるヤングアダルト戦士たちの心意気なのだ。

(東京創元社 1540円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…