「自由研究には向かない殺人」ホリー・ジャクソン著 服部京子訳
主人公ピッパの住んでいる町で、17歳の少女アンディが行方不明になった。彼女と交際していたサル・シンがどうやら何かしたらしい。というのは、警察の事情聴取を受けたあと、サル・シンが自殺してしまうからだ。
それが5年前のこと。高校に通うピッパは、その5年前の事件を学校の自由研究として調べようと決意。彼女には、サル・シンが犯人だとは思えないのだ。そこで当時の関係者に話を聞いてまわるのである。協力するのは、サル・シンの弟ラヴィ・シン。「自由研究には向かない殺人」はそういう長編である。
昔の事件を素人が調べなおすというミステリーは数多いが、それらの作品と本書が若干ことなるのは、こちらがカーネギー賞の候補作に選ばれたことからわかるように、本書が同時に児童文学でもあることだ。正確に言うならば、ヤングアダルトだ。
妙な言い方になるが、だから前向きだ。希望がある。関係者に話を聞いてまわると、実にさまざまなことが明らかになり、人間の醜い欲望や嫉妬などが表面にあぶりだされるが、それでも希望を捨てずに進んでいくピッパに、気がつくと声援を送っているのも、ヤングアダルトの効用といっていい。
終わり間近、脅迫者の言う通りにしたのに相手が約束を守らず、ピッパが思わず、「こんなのフェアじゃない」と言うシーンがあるが、その彼女の怒りこそ、正義を信じるヤングアダルト戦士たちの心意気なのだ。
(東京創元社 1540円)