「挑発する少女小説」斎藤美奈子著
文芸評論がこんなに面白くていいんだろうか。脳がぷちぷち刺激を受けて喜んでいる。俎上に載せるのは、19世紀後半から20世紀前半に書かれた少女小説だ。「小公女」「若草物語」「ハイジ」「赤毛のアン」などの少女小説が、世界中で大ヒットし、いまでも読まれているのはなぜか。この疑問から著者は本書をスタートさせる。
斎藤美奈子はこれらの少女小説を貫く4つの特徴を、冒頭に掲げている。
①主人公はみな「おてんば」な少女である②主人公の多くは「みなしご」である③友情が恋愛を凌駕する世界である④少女期からの「卒業」が仕込まれている――。これだけでも、なるほどと納得するが、個別の検討に入ると目からウロコが落ちまくる。
たとえば、バーネット著「小公女」のセーラは、大金持ちの父親が亡くなって人生のドン底に落ちるが、そのために苦労して現実に目を向けるようになる。結局は、父親の財産がまだ残っていたことが判明して、セーラは莫大な富の相続人になるのだが、一度貧困の現実を知った事実は消えない。だから著者はこう書く。
「魔法の力を借りなくても、人の力で道は開ける。美貌の力で男に選ばれるだけが物語の上がりではないと『小公女』は主張します」
数年前の「文庫解説ワンダーランド」も超面白い評論だったが、今回もすごい。世界が違って見えてくる。
(河出書房新社 946円)