「俺達の日常にはバッセンが足りない」三羽省吾著
バッセンとは、バッティングセンターのことで、昔はあちこちあったのに最近はめったに見かけない、とエージは言うのだ。大人も子供もたむろして楽しい場所であったのに、ああいう場所がないのは寂しい、と彼は言う。
問題は、だから俺たちでつくろうとエージが言いだすこと。というのはこのエージ、「昔からふざけていて、授業などまともに受けず、友達を利用して、ときには裏切り、約束を簡単に破り、借りた金を返さず、強くないくせに喧嘩っ早く、どんな仕事をやっても長続きせず、おんなにだらしがない」男だから信用できないのだ。
それでも中学の同級生たちは巻き込まれていく。土建業の家に生まれながらいまだに電話番すらまともにできないシンジ、中2までは女子最強と言われていたが、男子高校生を5秒で昏倒させた瞬間、称号から女子が取れた阿久津ミナ(現在は地元の信用金庫で窓口担当)。さらに、田舎ではあるけれど地域ナンバーワンのホストになっているアツヤ。
彼らの事情とドラマが、バッセン事業の立ち上げと並行して語られていくのだが、これが読ませるから物語にぐんぐん引きずりこまれていく。仲のよかった同級生でもこの話に乗らないやつもいたりするから、それも妙にリアルだ。そしていちばんは、読んでいるうちに自然と、バッセンは私たちの生活に本当に必要かもしれない、という気になってくることだ。まったく不思議なことである。
(双葉社 1980円)