「神欺く皇子」三川みり著
ライトノベルを読んでいると、異世界に飛ぶ話と、時間線を遡るタイムスリップものが少なくないので、いささか食傷気味である。この2つをモチーフにしたものは嫌いではないので、そういう作品が多いのはうれしいのだが、あまりに多いと「またかよ」と読む前から疲れてくる。しかし、中にはすごいやつがあるのだ。それが本書だ。
大地の底に竜が眠る国を舞台にした異世界ファンタジーだが、その竜の声を聞けない女子(遊子)と、逆に聞こえる男子(禍皇子)が、この国では忌み嫌われているというのが、物語の前提だ。主人公の日織は、遊子であるという理由だけで姉が殺されたことを嘆き、怒り、王たらんとする。この国の王になって、そういう風習を変革したいのである。つまり差別をなくすための戦いだ。
当然、敵対者もいて、味方もいて、それらの個性豊かな人物が入り乱れて(このあたりは詳しく紹介したいが、スペースの関係でぐっと我慢)、王位を目指す争いが活発になっていくが、その戦いが具体的なのもいい。前王が残した箱にぴったりとおさまる竜鱗を捜し出した者が次の王なのだが、その竜鱗がどういうものであるのか誰も知らないというのもキモ。誰も知らないものをどうやって見つければいいのか。
作者の三川みりは、2010年にデビューした作家ですでに50冊近い著作を持つが、本書は大人の読者の鑑賞にも十分に堪える作品だと思う。 (新潮社 781円)