「プエルトリコ行き477便」 ジュリー・クラーク著 久賀美緒訳
ここには2人の女性が登場する。まず、クレア。上院議員選挙への立候補を予定している大金持ちの夫(実はパワハラ男)の暴力から逃れたいと思っている女性だ。もうひとりのヒロインは、エヴァ。彼女はドラッグ販売組織から抜け出したいと願っている。
この2人がニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で出会い、互いの航空券を交換する。自分ではない誰かになって目的地で降り、そのまま街中に消えれば、自分の痕跡を消すことができる。彼女たちはそう考えるのだが、事態が複雑になるのは、クレアの航空チケットを持ってエヴァが搭乗したプエルトリコ行き477便が墜落してしまうからだ。96人の乗客の生存はほぼ絶望と報道されるのだが、のちに、クレアの名前でエヴァが乗った座席には誰も座っていないことが判明する。航空チケットをスキャンしたあとに搭乗しないなんてことができるのか。エヴァはどこに消えたのか。
一方のクレアは、手に持ったエヴァの携帯電話が鳴り、「すぐに電話しろ」というメッセージ。エヴァがどんな状況にいて、何に悩んでいたのか、クレアはまったく知らなかったのだが、その苦境をクレアは引き継いでしまったのである。パワハラ夫の魔手から本当に逃げ切ることができるのか、エヴァを追いかけてくる男たちを振り払うことができるのか。クレアの必死の逃避行がここからスリル満点に始まっていく。拾いものの一冊だ。
(二見書房 1408円)