著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「帰らざる故郷」 ジョン・ハート著 東野さやか訳

公開日: 更新日:

「川は静かに流れ」「ラスト・チャイルド」の2作でエドガー賞最優秀長編賞を受賞したジョン・ハートが、またまた傑作を生み出した。それが本書だ。

 1972年のノースカロライナ州の小さな町が舞台。ベトナム戦争から帰還後、ドラッグに溺れて刑務所に入っていたジェイソンが町に帰ってくる。その噂を聞いた父ビルは、ジェイソンが弟ギビーと会う前に、弟には近づくなと注意するつもりだったが、その前に2人は会ってしまう。長男ロバートがベトナムで戦死し、次男ジェイソンが人生を誤り、これで三男ギビーまでもが悪に染まってしまうと、家庭はめちゃめちゃになると父ビルは心配していたのだが、三男のギビーにしてみれば、ジェイソンはただ一人の兄なのである。世間では評判の悪い兄であっても、ジェイソンを慕う気持ちに変わりはないのだ。

 という話なら珍しいわけではない。ところが、ここから物語は予想外の展開を示していく。哀しい家族小説であり、強い絆で結ばれた兄弟小説であることは間違いないのだが、その底に、本当の悪とは何なのか、というモチーフが隠されている。ポイントは刑務所に君臨するXだ。この男が何を考えているのか、まったくわからないので、物語がどこに転がっていくのか予想がつかない。スリリングであるのはそのためだ。

 うまいなあジョン・ハート。最後には感動が待っている。

(早川書房 2310円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…