「帰らざる故郷」 ジョン・ハート著 東野さやか訳
「川は静かに流れ」「ラスト・チャイルド」の2作でエドガー賞最優秀長編賞を受賞したジョン・ハートが、またまた傑作を生み出した。それが本書だ。
1972年のノースカロライナ州の小さな町が舞台。ベトナム戦争から帰還後、ドラッグに溺れて刑務所に入っていたジェイソンが町に帰ってくる。その噂を聞いた父ビルは、ジェイソンが弟ギビーと会う前に、弟には近づくなと注意するつもりだったが、その前に2人は会ってしまう。長男ロバートがベトナムで戦死し、次男ジェイソンが人生を誤り、これで三男ギビーまでもが悪に染まってしまうと、家庭はめちゃめちゃになると父ビルは心配していたのだが、三男のギビーにしてみれば、ジェイソンはただ一人の兄なのである。世間では評判の悪い兄であっても、ジェイソンを慕う気持ちに変わりはないのだ。
という話なら珍しいわけではない。ところが、ここから物語は予想外の展開を示していく。哀しい家族小説であり、強い絆で結ばれた兄弟小説であることは間違いないのだが、その底に、本当の悪とは何なのか、というモチーフが隠されている。ポイントは刑務所に君臨するXだ。この男が何を考えているのか、まったくわからないので、物語がどこに転がっていくのか予想がつかない。スリリングであるのはそのためだ。
うまいなあジョン・ハート。最後には感動が待っている。
(早川書房 2310円)