「ラストワンマイル」風戸野小路著
いやはや、大変だ。秋山が働く国内大手物流会社は、ほとんどブラック企業なのである。サービス残業を強要され、その日のうちに配達が完了すればいいほうで、昼飯を座って食べたことがない。それどころか食べている暇もない過酷な日々である。
会社創業間もない頃から働いている秋山は、定年まであと1年。噂では、退職金を払いたくない会社が「ジジイ狩り」を繰り出して、老年社員を追い出しているという。そんなときに、港北第三営業所の所長就任を要請されるのである。断りきれずに所長になると、慣れない書類仕事が山ほどあり、これが「ジジイ狩り」なのかと思うほど。
おまけに港北第三営業所には問題の多い社員が少なくない。たとえば、元暴走族のリーダー西野だ。しょっちゅうクレームが入るのだ。「再配達でお時間指定されていて、お留守でしたよねえ。それですぐに持ってきては難しいですって言いました」と言うので、秋山が「本当にそう言ったの?」と尋ねると、本当は「テメーで時間指定して、すっぽかしといて、すぐ持ってこいだと! どの口が言ってんだ!」と言っちゃったという。集配作業が遅い宇佐美は時間を取り戻すために焦って事故を起こすことが少なくないし、秋山所長は大忙し。
そういう宅配便営業所の日々を軽妙に描きながら、現状を変革しようとする秋山の戦いを痛快に描く長編だ。 (集英社 704円)