イヤイヤ上京、社長愛人と同居…前川清の破茶滅茶デビュー
【私の新人時代】前川清(65歳・歌手)
僕の新人時代は少し変わっているかもしれません。夢に向かって頑張るような感じからは程遠かった。長崎のキャバレー「銀馬車」の専属バンドだったクール・ファイブにとって、東京でのデビューはイヤで仕方なかったんです。
■ディレクターにはケンカ腰でアタマにきたら殴って帰ろうと
寝台特急さくらに乗って門司を出て下関に向かう頃、宮本君が、もうすっかり暗くなった車窓を見つめて「あぁ……九州を出ちゃう。後ろ髪を引かれるね」って言うから、「引かれる髪なんかないだろ」って笑ったのがすごく印象に残っていて。まぁ、それくらいみんな長崎を離れるのは苦痛でした。
それは地元好きというより、メンバー……とくに佐世保の田舎者だった自分にとって、長崎市内でトップのグランドキャバレー専属というのが頂点でした。だから東京でのデビューといわれても、「何それ? 儲かるの?」という感じで。
もともとクール・ファイブって最初はラテンジャズとか自分たちの好きな音楽を幅広くやっていたんですけど、少しはお客が喜ぶものをと社長に言われて歌謡曲っぽいものもやり始めた。言ってみれば食うためにやっていた面もありました。実際、上京すると給料が半分くらいになってしまうんです。僕以外の妻帯者だったメンバーにとっては死活問題ですよ。