萩尾みどりさん憧れる「岸恵子」 契機はメーク室での“助け舟”
■そばに行けずともずっと観察
なんと怒るどころか初対面の私をかばい、その場を収めて下さったんです。メークさんも私も引っ込みがつかなくなっていたので、お互いにとって助け舟になったのは言うまでもありません。でも、それよりも私が驚かされたのは岸さんの素晴らしくエレガントな立ち居振る舞いでした。
立ち上がられた途端にメーク室にオーラが立ち込めたんです。いや、本当にビックリしました。その光り輝く気品に圧倒されてしまって、私は何かモゴモゴと言ったような気がするんですが、ほとんど覚えていません。
岸さんは日本映画全盛期の松竹の看板女優だっただけでなく、56年には日仏合作映画「忘れえぬ慕情」で主演を務め、そのご縁で翌年にイヴ・シャンピ監督と結婚なさいました。世界を股にかけた大女優。それは分かっていましたが、いざ、ご本人にお会いしてみると、そのオーラは想像以上のものでした。
その日から私の憧れの女優は岸さんです。撮影中はそばに行けなくても、ずっと観察してたんですよ。立ち居振る舞いはもちろん、衣装を整える時のしぐさ、視線の移し方、話し方……、直接教えていただいたわけではありません。でも、そばで見てるだけで勉強になりました。それが私の女優人生にどれだけ役に立ったことか。
あれから38年。少しでも見習いたいと思ってきましたが、距離は開くばかり。はるかに遠くて高い存在です。