「火花」の2年前…又吉直樹がのぞかせた芥川賞作家の片鱗
作家のせきしろは昔から又吉の才能を高く評価していた。又吉とともに自由律俳句の本を作り、又吉のために太宰治のイベントをプロデュースした。こうした後押しを受けて、「読書家」「太宰ファン」というイメージが少しずつ定着していき、仕事の幅も広がっていった。
店員に薦められて好きでもない服を買ってしまったり、花火大会の場所を間違えて花火を見損ねたり、日常の中でちょっとしたせつない出来事が起こる。又吉の手にかかると、そういうほろ苦い思い出のひとつひとつが小さな笑いの源泉となっていく。
傷つきやすい内気な青年が、大都会にのみ込まれ、ぼろぼろに打ちのめされながらも、そこで踏みとどまって戦い抜く魂の記録。芸人・又吉の素顔が浮き彫りになる渾身の一作だ。
(お笑い評論家・ラリー遠田)