「言論の自由がない」D.スペクターさん東京五輪狂騒に苦言

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■グルになって視聴率を稼ごうとするメディア

  ――組織委と都が募集している五輪ボランティアは約11万人にも上ります。

 そもそもそんな大量に必要ですか。今や、日本には年間約3000万人の外国人観光客が来ています。それでも、都内で彼らを案内しているボランティアなんかほとんどいないでしょ。五輪だからといって、大量のボランティアが必要だという理屈は通りません。しかも、五輪を見に来る人は、ほとんどが関係者で五輪の事情を知っている人たち。友達や親戚が出場している人、あるいは、スポーツ関係者とかスポンサーとか。選手だって、自国のスタッフを雇っています。スマートフォンや宿泊所で、都内の案内情報は分かる。だから、組織委や都が考えているほど、ボランティアは必要ないと思う。

  ――組織委や都は宣伝費用を使ってボランティアを募集し、文科省は学生ボランティアの参加を暗に働きかけています。国を挙げて五輪を盛り上げようと必死です。

 日本で五輪が大袈裟に扱われる理由のひとつは、日本ではアマチュアスポーツが美化され過ぎているから。メディアはアマスポーツやパラリンピックに関して感動的な物語を演出しがちですが、冷静に考えると、アスリートは、自分のやりたいことをやっているだけ。今の時代、安い賃金で働いている介護士や学校の先生、消防士などの方がよほど偉いと思う。それなのに、アスリートに関しては美しい話が作られる。いわゆる、感動をオーバーに演出するのを改めて欲しい。

  ――アメリカでは、五輪はどのように扱われているのでしょう?

 アメリカ人は、五輪選手がメダルを取っても、「頼んだ覚えはない」という一歩引いた気持ちで見ています。才能のある人が自己満足でやっているという考えだから、日本みたいに大袈裟じゃないんですよ。もちろん、アメリカが獲得したメダルが増えるとうれしいけど。あと、アメリカには一年を通じて、野球やバスケ、アメフトやアイスホッケーなどのプロスポーツリーグがあるから、誰もスポーツ観戦に飢えていないんですよね。

  ――逆に、日本では五輪が過剰にもてはやされていると。

 放送の仕方にも問題があると思います。日本だと、NHKと民放が一緒になった「ジャパンコンソーシアム」が五輪の放映権を買う。だから、放映権獲得のために払った大金の元を取りたくて、しつこく宣伝をやり、各社がグルになって五輪を盛り上げて視聴率を稼ごうとするのです。ところが、アメリカではFOXを入れて4大ネットワークがあり、そのひとつであるNBCしか五輪を放送しない。他の局はニュースとして各競技の結果を伝えるくらいで宣伝もしない。だから、日本みたいに朝から晩まで五輪の話題一色ではないのです。それに、五輪選手を平気でちゃかしたりする。1局しか放映していないから、その他の局からすればタブーもないし、何を言ってもいいから。日本でも五輪が1局だけの放映だったら、もう少し扱いが違ってくると思う。

  ――アマチュアスポーツに対する見方や姿勢が日米では異なる?

 アメリカだと五輪に出た選手は、割とあっさり競技をやめる人が多いんです。出場した頃がピークで引退して、弁護士になったりビジネスをしたりする。日本だと、引退後にスポーツタレントとしての道があるから、講演したりコメンテーターになったりする。でも、日本のメディアでは、メダリストがずっと重宝されてヨイショされ続けるから、アマチュアスポーツ界で権力を握る“ドン”みたいな人が出てきてしまう。

■誇大妄想で時代遅れ

  ――日本では、五輪を批判することがはばかられるような雰囲気があります。

 まさに、五輪がしらける要因のナショナリズムですね。ところが、世界大会でも国内大会でも、各国の選手たちはみんな仲良しで敵ではない。だから、メディアなどが国VS国の敵対関係をつくったりあおったりすると、無理やり感が出てしまう。選手同士がライバルでも、国籍なんて関係ないのです。五輪は、プロスポーツと違ってわざわざお金を払って見ているわけじゃない上に、多額の税金が使われている。だから、見ている人は好き勝手言っていいはず。スポーツは何でも文句を言えるからこそすてきじゃないですか。なぜ五輪だけは、“キレイ”じゃないといけないのか。五輪には言論の自由がないと感じます。

  ――五輪以外にも世界大会や国内大会など多くの大会があります。

 五輪はあくまで“お祭り”なのに、国内外ではスポーツの数ある大会で最も価値のあるものに思われています。だから、五輪の演出や報道が過剰なのです。スポーツがメインなら、開会式を数時間もやる必要はないでしょ。普通のスポーツで数時間もセレモニーを行う種目ってありますか。五輪そのものが、出場者と観戦者、演出者による誇大妄想なんですよ。現実はというと、五輪は世界万博のように時代遅れになっているから、どの国もやりたがらない。

  ――最近、日本国内では台風や地震、豪雨などの災害が多発しました。五輪の時期も心配です。

 なおさら、五輪でムダ金を費やすのではなく、社会保障や防災、復興などにお金を回したほうがいいと思う。東京五輪は復興五輪と位置づけられていますが、無理やり感が拭えません。「元気と勇気を与える」のは、24時間テレビだけでいいんですよ。どうせ根拠はないんだから。でも、何だかんだ言って五輪の開会式には行きたい。だって、現地に行けたらインスタにアップして、みんなに自慢できるじゃないですか。五輪をボロクソに批判するなら、ちゃんと見ないと何も言えませんから(笑い)。

 (聞き手=高月太樹・日刊ゲンダイ)

▽米国でテレビプロデューサー、放送作家として活躍し、1983年、米国ABC放送の番組プロデューサーとして来日。ツイッターのフォロワー数は、約176万人に上る。

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