イッセー尾形の役作りはわずかなヒントからリアル生み出す
イッセー尾形は81年に「お笑いスター誕生!!」(日本テレビ)で、金賞をとったことをきっかけにデビュー。翌年には早くも彼の代名詞の1つとなる一人芝居「都市生活カタログ」シリーズをスタートさせる。市井の人々の生活を切り取り、老若男女を実在するかのようにリアルに演じる独自のスタイルを確立していった。
彼は芝居一本で生活できるようになるまで、建設現場で日銭を稼いでいた。毎日、ほこりと汗まみれになってクタクタになるまで働いた。その時、そこから見える歩行者天国を歩く人々がすごく幸せそうに映ったという。
特別な成功者ではない普通の生活者が輝いて見えた。その光景が今も脳裏に焼き付いている。その一瞬の光景を膨らませて、「一人一人の人生をくっきり、はっきり表現していくことが自分の仕事だ」(リビングくらしHOW研究所「発見!暮らしのスパイス」11年9月20日)と言う。
今回、中村を演じるにあたって手がかりにしたのは、顔写真と残されていた電話の声だけだったという。電話の内容は苦情だが、イッセーには人に道を教えてるみたいな口調に聞こえた。コンパクトに話は終わらず、ダラダラダラダラ続いていく。その語り口だけを頼りに役作りをしていったのだ。