「歩いても歩いても」 希代の名脇役が演じる母の“心の闇”
本作の面白さはファミリードラマと正反対の生身の感情が湧き出ることだ。その中心がとし子。ゆかりに高価な着物を譲りながら、良多が子連れの女と結婚したことに納得できない。だから子づくりを諦めるよう、ゆかりを諭す。純平に救われた青年が毎年訪ねてくることについて、良多が「彼も苦しんでる」と言うと、「だから呼んでんじゃないの。10年やそこらで忘れてもらっちゃ困るのよ」と冷たく答える。昼間はかいがいしく孫の面倒を見ているが、夜になると冷徹な顔に。この母親の心の闇が見る者をぞっとさせるのだ。
だが、とし子は昼間は気のいいおばあちゃんに戻る。メリハリの利いた明と暗の落差は樹木希林ならではのもの。主人公をとし子と考えて見たほうが本作のエッセンスを理解しやすい。 (森田健司)
(C)2008 「歩いても 歩いても」製作委員会