上田慎一郎監督が語る 10年前の小説から「カメ止め」まで
2018年最大の話題作といえば「カメラを止めるな!」(通称カメ止め)だ。製作費300万円というインディーズ映画ながら、全国公開し興行収入は31億円に大化け、「新語・流行語大賞」にも選ばれた。そんな時の人、監督の上田慎一郎氏(34)が24歳の時に書いた小説「ドーナツの穴の向こう側」(星海社)が新装版として刊行され話題になっている。「『カメ止め』以来、全て帳尻があってきた」という上田氏を直撃した。
小説「ドーナツの穴の向こう側」は、映画「カメ止め」へのプロローグだったという。
「24歳で映画一本でやっていこうと決意した時に書いた小説で、自分にしかできない、これが俺だ、って思うことを詰め込んだ作品です。物語と映画は別物ですが、登場人物やエピソードはこの後の映画作品につながっているんですよ」
映画監督になるまでには、マルチ商法で大借金を抱えたことも。
「高校時代に演劇や映像作品で受賞し、大学から推薦入学の話もあり『ハリウッドに行って監督になるんだ!』と過信していたんです。それで語学力をつけるために大阪の英語の専門学校に進学したものの英語が全くわからず2カ月で中退。それから上京し、“俺は映画監督になる”とミクシィに書いていたら、『あなたの考えに共感します、いい仕事があるから』という可愛い女の子が現れまして。これがマルチ商法の入り口で、都合200万円の借金をつくり、友達も家も失いました。滋賀の田舎で育った僕はダマす人がいるなんて思わないほどお人よしだったのと、自分が映画そのものから逃げていたのが原因でした」
「映画で失敗したら自分の実力がつまびらかになるからとマルチ商法とか、カフェ経営とか別の食いぶちを考えて、映画そのものから逃げるばかりで遠回りしていたことに気づきました」という上田氏。3年前からはアルバイトを辞めてようやく監督業に打ち込めるようになった。
「それまでは家電量販店で携帯の販売や、深夜のコールセンターなど、自由度が高くて時給のいいアルバイトをしました。こういうバイトは夢追い人も多かったので、バイト仲間に映画の主題歌を作ってもらったり、人脈も広がりましたね。アルバイトを、お金を稼ぐだけと割り切ると、止まっている時間になってつらいけど、僕は夢に向かっている時間だと思っていたので苦行とは思いませんでした」