上田慎一郎監督が語る 10年前の小説から「カメ止め」まで
1ミリでも前進しながら考える
20代前半にマルチ商法で痛手を負った上田氏は一念発起、映画製作に集中し、次第に映画賞の常連に。そして10年目、「カメ止め」が誕生した。
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「カメ止め」はインディーズ映画の“ポッと出”がブームになったサクセスストーリーと語られがちだが、実は公開前から映画祭や海外で評価されていた。
「ワークショップで作った作品で、卒業製作的に内輪で公開する時点でチケットが即日完売したり、地方の映画祭に出品するだけでなく、海外の映画祭に出品するエージェントの方の目に留まって、スペインの映画祭にも出品しました。日本での劇場公開前に海外で5分間のスタンディングオベーションを受けたことは大きな自信になりましたね」
劇場公開すると、連日満員御礼が続き「見れない!」というコメントがSNSで拡散。
「僕は宣伝もエンターテインメントだと思っているので、自分たちでツイッターで呟いたり“草の根運動”はしていましたが、若い人や芸能人がツイートしてくれて、拡大公開になりました」
そして原作の盗作騒動にまで発展……。
「それについてはまだ終わっていないので一切お答えできないんです……。でも、長い人生の中でいずれは今までのように回収できる時が来るんじゃないかと思います」
再版した小説「ドーナツの穴の向こう側」のあとがきには「カメ止め」のおかげで帳尻があったと、追記がある。
「小説も再販されましたし、前作の映画『お米とおっぱい。』もDVD化して、今までやってきたことが遡って評価されました。自分が思春期に憧れていたライムスターの宇多丸さんをはじめ、いろんな人にも会わせてくれて、かなりの夢がかないました。ある意味“伏線の回収”かもしれません」
過去作が全て評価されたことで逆に不安はないのだろうか?
「10年抱えていた在庫はなくなったけれど、今は“未知の体験”が始まっているので、それが“仕入れ”になっています」
「カメ止め」は他の作品とは何が違うのだろうか。
「これが俺だと言える、自分にしかできないものを詰め込んだという自負はあります。映画の中で『出すんじゃなくて、出るんだ!』というセリフがありますが、夢中になって、我を忘れて集中して作ったのは確かです。
何かの本で読んだのですが『50メートルの大きなプールから水をくむのに柄杓しかないとしたらどうするか?』という命題があります。僕はいつも思うんですが、まずは柄杓で水を出しながら方法を考えます。何もしないより、1ミリでも前進しながら考える。期せずしてタイトルにした『カメラを止めるな』も、そんな僕の無意識から出たタイトルかもしれません」
▽上田慎一郎=1984年、滋賀県生まれ。中学時代から仲間と映画製作などを始め、フリーターを経て、24歳から映画監督に。2017年にENBUゼミナールのシネマプロジェクトで劇場長編映画「カメラを止めるな!」を製作。単館映画館で35日間、77回満席という、低予算のインディーズ映画ではあり得ない記録を作り、興行収入は31億円超え。15日に発表された「日本アカデミー賞」では8賞に輝く快挙を達成。