<2>時の総理が後援会会長だった落語家は師匠だけでしょう
「師匠は高級品が好きで、身に着けていたのはどれも高い物でしたね。高座着だっていい物を着てました。亡くなって何枚か頂きましたが、丈が短いので私が着ると膝までしかない。袴を付けて着ても袖丈が短い。師匠が亡くなって3カ月後に、おかみさんから『形見分けをするからいらっしゃい』とお宅に呼ばれていくと、着物以外で師匠が愛用していた物が20点もあって、その中に超高価なのがふたつあったんです。ひとつは男物のクリソベリル・キャッツアイの指輪。師匠が1970年に3代目円歌を襲名した時、後援会会長だった佐藤栄作首相から頂いた物です。時の総理が後援会会長だった落語家は、後にも先にも師匠だけでしょう」
佐藤が円歌を贔屓にしていたのは有名な話で、佐藤の筆による「道」と書いた扇子を、よく高座で見せびらかしていたものだ。
「『こんな高価な指輪、頂けません』と固辞したら、プラチナのリングの裏を見てと言う。見たら、『ENKA』と彫ってある。だからもらってくれと言われ、小指にはめたら第1関節までしか入らない(笑い)。師匠は指が細くて私が太いんです」(つづく)