「水のないプール」昏睡レイプ魔役は内田裕也の原点か
もちろん実際の被害女性が犯人に心を寄せるわけがない。本作はねりかの淡い喜びを含めて男の願望を物語化しただけだ。お叱りを覚悟で言うなら「男のメルヘン」。90年代に出現した「夜這いプレー風俗」はこうした願望の具現化だった。
内田裕也は「自分は何でもできる。許される」という全能感を漂わせた人で、「ロケンロール」を繰り返しては都知事選に出たり政治の現場を見学したりした。本作の男はヒトラーを思わせる制服の警備会社社長(原田芳雄)の大言壮語を聞いて犯行に向かう。眠らせた女性をハーレムのように支配。「町を悪いヤツらから守っている」と妻に宣言し、罪の意識はない。これも全能感だろう。
男が舌を出すラストはその後の内田裕也の方向性を暗示している。赤い舌が「これからも世の中を引っかき回してやる」と挑発しているようだ。
(森田健司/日刊ゲンダイ )